隣の席の肉食獣
新学期始まって早々席替えをした。せっかく仲が良くなった周りの人達とも離れてしまった。まぁ、くじ引きなんだからしょうがないんだけど。新しい席は運良く一番後ろだし、窓側だし、別にいいんだけど、さ。


「………」
『………』


隣の席からの視線が痛い。え、確か隣は灰羽リエーフくん、だったよね。そんなに話したことないよね。事務的な会話しかしたことないよね。…気付かない間に何かしちゃったとかかな?
分からないけど、ハーフの目力やばいです。もしかして、私じゃなくて外の景色を見てるとかないかな、と思ってそっと隣に目を向けてみて直ぐに逸らす。勘違いじゃなかったよ馬鹿。思い切り目合っちゃったじゃないか。


「えっ、なんで逸らすの」
『……えっ』


残念そうに言った灰羽くんに驚いて思わず反応してしまった。しまった、と思って口を手で覆うけど、もう遅いよね。


「苗字サン」
『な、なんでしょう』
「俺ずっと見てたんだけどわかんなかった?」
『………』


気付いていたに決まっている……とは言えずに、少し笑って「そうなんだ、気付かなかった」と言うと彼は少し口を尖らせる。あ、ちょっとかわいい。


『えっと、何かごめんね』
「…苗字サン好きな食べ物は?」
『………ん?』


突然質問を投げかけられて、少し混乱する。え、なんでいきなり好きな食べ物…?今そんな会話してなかったよね?


『オムライス、とか』
「へえ!あ、俺はおいなりさん!」


とりあえず質問に答えると灰羽くんはにっこりと笑って今度は自分の好きなものを教えてくれた。…これは灰羽くんなりの自己紹介なのかもしれない。
さっきは怖くて逸らしていた目も今は少し見れる。さすがハーフだ、目が綺麗で少しキラキラしているように見える。


「俺好きな子と直ぐに仲良くなるためにはどうしたらいいかわかんなくて」
『へー………え、』
「部活の先輩に聞いたら、とりあえず相手の事をよく知ること!って言われて」
『え?』
「よく考えたら俺苗字サンのこと何も知らないなーって思って!」
『…えっと、灰羽くん?』
「そしたら今日、席が隣になって横顔とか見てやっぱり好きだなって俺」
『ちょ、ちょっと待って灰羽くん!』


すごく興奮したようすで話し続ける灰羽くんに声を賭けて一旦話しを中断させると灰羽くんは不思議そうな顔をして私のほうを見る。…待って、今灰羽くんは一体何の話しをしているの。


『な、何の話しをしてるの?』
「え?俺が苗字サンを好きって話!」
『……えっ』
「先輩にはシンチョウに行けよって言われたんだけど、そんなチンタラしてたら他のやつにとられると思って」
『は、灰羽くん私のこと好き…なの?』
「うん、ずっと好き。入学してから」
『!?』
「とりあえず、名前で呼んでよ。俺も名前って呼ぶし、ね?」


顔を少し近付けて確認するように言う灰羽くんに、やっと自分の置かれた状況を把握し始めて、ぼぼぼっと顔が熱くなる。そんな、顔近付けるのはやめてほしい。いきなりそんな事を言われても困るよ。先輩のアドバイス通りに慎重に来て欲しかった…!


『っわ、わかった、から』
「やった!」
『あの…ちょっと、離れて』
「え、なんで窓のほう向くんだよー!」
『は、はいば…リエーフ、くんが近いから…!』
「わざと近付いてるのに」
『!?』
「まぁ、いいや。後一ヶ月は名前と隣同士だし」


大人しく元の距離に戻るリエーフくんの顔は見れなくて、次の授業で使う教科書を取り出して顔を隠すようにして隣と壁をつくると、すかさずリエーフくんが「何それ!」と反応したけど顔の熱が下がるまで許して欲しい。



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bkm
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