※「涼しい顔で」続編。
『おはよう光太郎くん!』
「おー苗字!はよ!」
席替えで隣の席になった木兎光太郎くん。こうみえてもバレー部の主将である。この髪型はいったいどうなっているんだろう。
『これセットしてるの?』
「おう!かっこいいだろ!」
『うーん』
かっこいいのかどうかはわからないけど、この髪型じゃない光太郎くんはなんかしっくりこないと思う。座っている光太郎くんの横に立って、セットされている髪に手を伸ばそうとしたところで、聞いたことのある声が聞こえる。
「木兎さん」
伸ばしかけていた手がピタリと止まって、その声がしたほうへ目を向けるとついこの間会ったばかりの後輩だった。
「なんだ赤葦ー!どうした?」
「どうしたじゃありませんよ。今日の朝練でコレ忘れていったでしょう」
「あー!俺のタオル!」
「…しっかりしてください」
光太郎くんの近くまで歩いてきた赤葦くんに、ドキドキしながらも声をかける。
『お、おはよう赤葦くん!』
「おはようございます名前さん」
『赤葦くんも大変だねぇ』
「わかりますか」
『光太郎くん、ちょっとおバカさんだからね』
「おいまて!お前この間のテスト俺より悪かったくせに!」
『ぎゃー!何で言うの!』
慌てて光太郎くんの口を塞ぐけれど、もう遅い。赤葦くんにも聞こえてしまっただろう。ああああ、恥ずかしい…。馬鹿なやつだって思われちゃったかな。チラリと赤葦くんの顔を見てみると、目が合う。
「勉強苦手なんですか?」
『う…うん』
「どっちですかそれ」
笑ってそう言った赤葦くんに、少し驚く。…こんな風に笑うんだ。笑う赤葦くんに見惚れてそのまま見ていると、笑うのをやめた赤葦くんが、フイっと顔を逸らしてしまって何だかちょっと寂しい。
「赤葦ー。もう鐘なるけど」
「そっすね」
じゃあ、そろそろ帰ります。
そう言って廊下へ歩き始めた赤葦くんを追いかけて私も一緒に教室を出る。後ろから光太郎くんの声が聞こえたけど、今は無視するねごめん。
『赤葦くん!』
「え、はい?」
『…今度、バレー部の練習試合見に行こうと思うんだけど、行ってもいいかな?』
ドキドキする胸を押さえてそう言うと赤葦くんは目を見開いて驚いた顔をする。…やっぱり、見に行くの迷惑、なのかな。
「…それは、木兎さんを見に、ですか」
『え?』
「名前さん」
一歩一歩私に近付いて、私の名前を呼ぶ赤葦くんに何だかもう心臓が喉から出てきそうだ。きっと赤いであろう顔も隠さずに、カラカラと乾いた口を開いて言う。
『…あ』
「………」
『赤葦、くん…を、見たいなって』
顔を上に上げて、赤葦くんを見てそう言えば、赤葦くんは優しく笑って言った。
「じゃあ、いいですよ」
ねぇ、赤葦くん、私期待してもいいのかな。