涼しい顔で
「…いって」
『…あ、』


ばさばさばさ
さっきまで腕に抱えていたノートが全部床に散らばった。ああ、みんなのノートなのにな。折り目とかついちゃってたらどうしよう。…なんて、そんなことは今どうでもいい。待って、何なんだこの状況はいったい。


『え、あ…ごめん!』
「え、いや、こっちも前見てなかったんで」


何処かで見たことある顔だなあなんて呑気なことを考えている場合じゃない。数十秒前、廊下の曲がり角で男子とぶつかってしまった。教科担当である英語のノートをクラスのみんなから回収して、職員室へ運ぶ途中だった。ぶつかった衝撃でノートは床に散乱し、私は……何故か、その男子を組み敷いている。


『ほ、本当にごめんなさい…!怪我とかないですか!』
「…あの、平気なんで、とりあえず退いてくれませんか」


少し困ったようにそう言った彼に慌てて飛び退くと、彼はゆっくりと上体を起こしてノートを拾い始めた。


『いいよいいよ、自分で拾うよ!』
「俺のせいで落ちたんですから、俺が拾います」


さっさとノートを集める彼に、私も急いでノートを拾う。ああ、もう恥ずかしい。
二人で全て拾い終わり、立ち上がった所で彼の身長が大きいことに気付く。


『あ、ノートありがとうございます!』
「いえ」
『じゃあ、貰いますね』


そう言って彼からノートを取ろうと手を伸ばせば何故か、スっと避けられた。


『…へ?』
「運ぶの手伝いますよ、重くないですかコレ」
『え、でも何か用事あるんじゃ』
「…あー、今から部活ですけど、少しくらいなら」
『で、でも申し訳ないですし』
「それと」
『はい?』
「敬語じゃなくていいですよ、俺二年ですから」


あ、そうなんだ。大きいから同級生かと思ってたけど、一個下なんだ。男の子ってなんでこうも成長するんだろう。…そういえば、私のクラスメイトも大きいや。って、あれ。なんで私が三年だってわかったんだろう。


「木兎さんのクラスの人ですよね」
『え?ぼく、と…?』
「木兎光太郎、です」
『ああ!光太郎くん!』


頭の中で、あの特徴的な髪型を想像する。バレー部主将の光太郎くんのことか。そうだ、確か彼の苗字は木兎だったな。なんて納得するけど、なんで私が彼と同じクラスって知ってるんだろう。


「…何度か教室行ってますから」
『あ、そうなんだ』
「それは置いて、ノート運ぶの手伝います」
『光太郎くんに怒られない?』
「ちゃんと理由言うんで大丈夫ですよ」
『じゃあ、お願い、しようかな』
「はい」


私よりも多く持ってくれている彼に申し訳なさを感じながらも、何とか職員室まで無事に運ぶことが出来た。先生に「重かっただろう悪いな、苗字に赤葦」と言われて、ハッとする。そのまま静かに廊下に出てから、彼と向き合ってお礼を言う。


『ほんとにありがとう!』
「大丈夫ですって」
『えと、あかあしくん?で合ってるのかな』
「!…赤葦京治、です」
『あ、私は苗字名前です!挨拶遅くなっちゃったね』


笑ってそう言えば赤葦くんは顔を逸らして「そろそろ部活行かないと木兎さんうるさいんで」と言った。あ、そうかと思いながらも、もう少し話したかったな…なんて。


『光太郎くんに怒られたら私に言ってね!私が理由言うから!』
「はい…じゃあ、また」
『うん!部活頑張ってね赤葦くん!』


赤葦くんを見送ってから、自分も教室へ帰ろうと足を進める。
あかあしくん、あかあしくん…よし、覚えた。赤葦くんはいい人だなあ。明日光太郎くんにお礼言わなきゃな。




(…すみません遅れました)
(おせーよ赤葦ぃ〜!)
(だから、謝ってるじゃないですか)
(え、どうかしたのか赤葦!?)
(…何がですか)
(顔真っ赤だぞお前、熱でもあんの?)
(っ!)


prev next

bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -