その距離ゼロセンチ
『え、おかえり?』
「おー」
『え、いや、なんで来たの?』
「いーから、いーから」


ジャージ姿のまま私の家に押しかけてきたツンツン頭の彼は私の質問を無視して、ずかずかと家に上がり込んできた。


「あら、黒尾くん久しぶりねぇ」
「お邪魔します」
「ゆっくりしていってね」
「はい」


嘘くさい笑顔をお母さんに向けて挨拶した鉄朗は、そのまま私の部屋に直行した。確か数日前から部活動であるバレー部で合宿兼練習試合をやるために宮城に行くって言っていたから、この姿を見る限り帰ってきたのは今日だろう。


『鉄朗?』
「はー疲れたわー」
『え、いや……うん?』
「俺に何か言う言葉は?」


ドサリと床にエナメルの鞄を置くと、なんの遠慮もなく私のベッドに腰掛けた鉄朗は私の方を向いて態とらしく溜息をついてそう言った。突然何なんだと、混乱しながらも鉄朗が待っている言葉を考えて口に出す。


『…お疲れさま?』
「ん、」


どうやら合っていたらしいその言葉に鉄朗は目を細めて、ちょいちょいと手招きをしてから自分が座っている横側をぽんぽんと叩いた。横に座れってことだろうなと、大人しく横に座れば、長い腕が伸びてきてぎゅっと抱きしめられる。


「…久しぶりだわコレ」
『たかが数日でしょ?』
「つめてーなあ」
『う、わ』


抱きしめられたままベッドに二人一緒に倒れこむと、鉄朗に腕枕をされてよく顔が見れる状態になって少し恥ずかしい。相変わらず凄い寝癖だなあと手を伸ばして髪に触れれば、目を閉じてじっとする鉄朗に猫みたいだと思う。そう言えば、バレー部員からは「クロ」って呼ばれてるんだっけ。


「俺汗臭くねえ?」
『平気』
「そ」
『一回家に帰ってから来ればよかったのに』
「名前ちゃんが俺に会いたくて泣いてんじゃないかなーって思ってサ」


ニヤニヤしながらそう言った鉄朗の言葉を否定出来ないのは、泣くまではいっていないけど会いたいと思っていたのは本当だからだ。ずばりと当てられてしまったのと、家にも帰らずに真っ直ぐ私のところに会いに来てくれたのがなんだか嬉しくて少し素直に言ってみると、鉄朗は意外だったのか目を見開いた。


『…会いたいとは思ってたよ』
「…何だ珍しいな、すぐ認めんの」
『だって本当のことだもん』
「へえ?」


頭のしたを通っていた腕が折り曲げられて、鉄朗のほうへ引き寄せられる。さっきまで近かった距離がもっと近くなって、鼻と鼻がぶつかる距離まで近付く。


「あんま可愛いこと言ってると止まんねーかも」


そう言って私達の距離はゼロセンチになった。


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bkm
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