「…………」
「無言はダメだろ、なぁ名前」
『え、あ、はいそう……ですにゃ、』
クロ先輩の声に「そうですね」と返そうとすると、ギロリと言う音が聞こえてきそうな勢いで睨まれる。……やばい今凄い寒気がした。先輩のあんな顔を見るのは初めてかもしれない。もう夜久先輩だけは絶対に怒らせない。今決めた。
「そうですよ夜久さん!俺だって言いたくないんですからにゃん!」
「リエーフ何の抵抗もなしに言い始めた癖に何を言う」
「あんまり面白くないなぁ」
前から思っていたけど、クロ先輩よりも海先輩のほうがSでいらっしゃるのかもしれない。面白くないって…自分が負けてたらどうするつもりだったんだ…。
「ていうか、これって誰得なんですかにゃん?」
『私得だよリエーフにゃん』
私とリエーフくんで話すと二人してにゃんにゃん言ってて気持ち悪いな。付き合いたてのバカップルみたいだな。それにしても夜久先輩は一向に話す気配がないなぁ。むしろどんどん不機嫌になっていってる気がする。
「……だから俺は嫌だって、」
「えー?何?最後の語尾が聞こえなかったんだけどー?夜久くーん」
『っちょ、クロせんぱ、』
夜久先輩のほうを見ながら手を耳に添えてニヤニヤして言うクロ先輩は完全に夜久先輩を煽っている。よくあの状態の夜久先輩を挑発出来るな…こういうとこ尊敬するよクロ先輩。
「あ、のー…、すんません俺ら次移動なんでそろそろ…」
「………」
そう言って荷物をまとめて立ち上がった虎くんと招平くんはそそくさと屋上を後にした。…いいな、私も教室戻りたい。
「あ!じゃあ俺達も教室戻ります!」
「ええ!俺も?」
「いいから!」
「だってまだ夜久さんのにゃん聞いてな、」
「失礼しましたー!」
1年生もみんな帰ってしまい、ここにいるのは3年生と私と研磨だけになってしまった。…うん、私も帰ろうかな。研磨も帰りたそうにしてるし。
『…あの、』
「じゃ、今日はここまでにしようか」
「えー。夜久がまだ喋ってないんだけど」
「黒尾そろそろやめておかないと後が怖いよ」
「……じゃ、帰るか」
「俺も帰る」
『え、え、私も帰るよ置いてかないで…!』
海先輩とクロ先輩がささっと荷物をまとめて歩き出してしまい、帰る準備万端だった研磨もそれに続いて歩き始める。モタモタしていたら夜久先輩と二人きりになってしまった。…気まずい。元はといえば、私の考えた罰ゲームなんだし、謝ったほうがいいんだろうか。
『…あ、あの!』
「………なに?」
あああああああ、怒っていらっしゃる…!ちくしょうクロ先輩のせいでしょうが!放置していかないでくださいよもう!!
いつもは優しい夜久先輩が少し不機嫌…いや、かなり不機嫌なのにビビリながらも必死にすみませんでした私のせいで、と謝ると先輩は大きく息を吐いて荷物を持って立ち上がった。
「…いや、俺が怒ってんのは黒尾だから」
『で、でも元はといえば私のせいですし…』
「いいっていいって、俺も参加したのが悪かったし……まぁ、負けるとは思ってなかったけど」
『ははは…』
「大体こういう罰ゲームは俺がやっても何の意味もねーのになぁ」
『…まぁ、そうですよね』
それでも夜久先輩のにゃんは一度は聞いてみたかったですけどね、なんて口が裂けても言えないな。軽く笑って先輩の言葉を流しながらそんなことを考える。あ、でもリエーフくんのは本当予想通りで可愛かったな。普段の時でも頼めば言ってくれそう。今度お願いしてみようかな。
「…まぁ、でも」
『え?』
「名前ちゃんのにゃん≠ヘ可愛かったけどね」
悪戯っこのような顔で笑った夜久先輩はそう言って私の頭に手を数回触れさせた後に「俺も教室戻るね」と言って、さっさと帰ってしまった。
しばらくの間動けずにいた私は、授業の予鈴の音にハッとして急いで教室まで走った。
……夜久先輩何言ってんだ…!