▼ Small wish
『…えっ』
新学期。今日から二年に上がるということで少し浮き足立っている人混みの中でクラス表を確認していると、思わずそんな声が漏れた。嘘だと思って何度も見直すけれど、どうやら嘘ではないらしい。
…少し前の私だったら飛び跳ねて喜ぶくらいだけど、今更こんな状況になられても…複雑だ。
「…京治と同じクラスになったからって余計なこと言ったりしないでよね」
ぼうっとクラス表を見たままじっとしていると耳元でそう言われて、振り返ると優里ちゃんが立っていた。…そうだ。私が別れて暫くして彼女は「京治」呼びに、私は「赤葦くん」呼びに変わった。
『…何も、言わないよ』
そもそも話しかける勇気すらない。あの日から。
私も赤葦くんも目すら合わせていないんだから。たまたまクラスが同じになったからといって急に仲良くなるわけがない。
「あっそう、なら別にいいけど」
『あの、噂流したのって』
「え?なに?」
「優里ー、行こー」
「あ、はーい!…じゃ、さっきの言葉忘れないでね」
『………』
だから、言わないって言ってるのに…。
私はあの噂を流したのは優里ちゃんだと思っている。…実際に聞いたわけじゃないからわからないけれど。まあ、今更それを調べたところでどうしようもないからいいか。
どうやら優里ちゃんは同じクラスではないらしい。それがわかって少しホッとする。まだ赤葦くんと優里ちゃんが話しているところを見るのはキツイ。
ふう、と息を吐くと隣に誰かが来たのがわかって視線を横に向けてから直ぐに元の位置に戻した。
「赤葦何組だった?」
「6組」
…近い。私がいるってことに気が付いてないのかな。そういえば、赤葦くんはあの噂を信じたりするんだろうか。………あんな別れ方しちゃったら信じるしかないよね。ズキズキ痛む胸に手を当てて静かにその場から離れた。
どうかこの一年は穏やかに過ごすことが出来ますように。
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