Everything was too slow

メッセージに気付いたのは部活へ行く前だった。
昼に送られてきていたらしいそのメッセージに目を通すと、すぐに返事を返す。

【今日、一緒に帰ってもいい?】

控えめにそう書かれたメッセージに自然と笑みが溢れる。
良かった。最近中々時間が取れなかったし、帰りなら家まで送っていけばそれなりにゆっくりと話すことが出来るはずだ。
少し前から気になることが一つあるから、それについても話してみたいと思う。気付いたのは本当につい最近だけど、たまに見る彼女の笑顔にどこか違和感を感じた。…俺の勘違いかもしれないけど。中学の頃から何かを溜め込んでしまう彼女のことだから、聞かないよりかはいいと思ったから。



「よー、赤葦副主将!」

「…そろそろそれやめて欲しいんスけど」

「なんでだよ!もっと胸張っとけばいいんだよ俺みたいにな!」

「ハイハイ、木兎主将部活始めるぞー」

「!!もっと言って!」

「おい木葉、木兎が調子乗るからやめろって!」

「悪い悪い」



もっと言えもっと言えと騒ぎ始めた木兎さんを軽くあしらう先輩達を見て、小さく溜息を吐く。
二年の俺が副主将なんてやってもいいのかという俺の悩みは無駄だったようで、実際にそのことが伝わると

「木兎を任せられるのはお前しかいねーよ…」

と言う先輩達の言葉で少し気持ちが軽くなった半分、これからの事が不安になった。



「で?今日のメニューは?」

「ん?」

「…いや、お前今日監督来れないからって昨日聞いてただろ」

「え、ああ!そうだった!………何だっけ赤葦」

「しっかりしてくださいよ…」



主将を任された日からずっとこの調子の先輩に、本当にこれから大丈夫なのかと心配になる。木兎さんがこの調子だからか、本来は木兎さんがやるべきことが俺にまわってきたりするから、副主将になったのはただ単に面倒な仕事を押し付けられただけなんじゃないかと思う。…まぁ、もうどうしようもないし、やるしかないんだけど。



「よーし!そんじゃ、練習始めるか!」



木兎さんのその声で、今日も部活が始まった。

















気付けばもう外は暗くなっていて、始めた頃よりも少し体が重い。



「木兎さん、そろそろ」

「おー、もうこんな時間か」



少し物足りないという顔をする木兎さんはきっと今日も残って自主練をしていくんだろう。片付け始めた他の部員に混ざって俺もいつもより手早く片付けを進める。
最後の挨拶が終わると予想通り残ろうと思っていたらしい木兎さんに捕まった。



「赤葦今日暇!?」

「暇じゃありません」

「嘘だろー」

「嘘じゃないですって…」

「じゃあ少しだけでいいからトスあげてくれ!」

「そう言って少しだった試しがないんで」

「マジだって!少しだけ!」

「いや、ほんとに今日はちょっと…」



しつこく俺に付いて回る木兎さんにうんざりしながら時計を気にしていると、木葉さんと目があった。俺の顔をみた木葉さんは少しニヤニヤしながら近付いてきて木兎さんに声をかける。



「今日は勘弁してやれよ木兎」

「なんでだよ」

「赤葦は、大事な用事があるっぽいから。な?赤葦」

「……はい」



この顔は何となく俺の予定を予想している顔だな。この人は本当に鋭い。それでも今回は助かった。木葉さんの言葉に渋々と言った感じで諦めてくれた木兎さんに軽く挨拶をして、走って彼女のところまで向かう。
校門に近づくにつれて見えてきた小さな背中に声をかけるのと同時に彼女が振り返った。



「なまえ」



名前を呼ぶと、柔らかくなるその表情に自分の頬も少し緩む。



「ごめん、遅くなった」

『走ってきてくれたの?』



俺のほうをみてそう言った彼女に少し自分の息が上がっていることに気が付いて、少し恥ずかしくなって、少しだけと伝えてから手を差し出せば何の戸惑いもなく重なる手に、少し前まであった部活での疲れが軽くなった気がした。



『今日はどうだった?』

「いつもと同じだよ。相変わらず先輩がうるさいけど」

『先輩達、京治くんのこと好きなんだよ』

「…嬉しくない」

『ほんとは嬉しいくせにー』

「割と本気なんだけど」

『でも先輩と一緒にバレーするの楽しいんでしょ?』

「……んー、まあ、少しは」



なまえは部活を見に来たりはしない。だからバレーにも興味がないのかと思っていたけど、俺によく部活でのことを聞いてくる。ほとんど先輩の愚痴か、試合が楽しいとかそう言ったことを俺が一方的に話してるだけだけど、それでも笑って楽しそうにする彼女が少し不思議だ。

そんなことを考えていると会話が途切れて、部活前に考えていたことを聞くなら今だろうかとタイミングを見計らっていると、ふいに足を止めた彼女に釣られて俺も立ち止まる。



「…なまえ?」

『………』

「どうかした?」



呼びかけても俯いたままの彼女に少し胸騒ぎがして、思わず握ったままの手に力が入る。



『…京治くん、あのね』



ようやく口を開いた彼女の表情はよく見えなくて、顔を覗き込むけどはっきりとはわからない。



「なに?」

『…あのね、』



ゆっくりと、話し始めた彼女の言葉を聞き逃さないように。黙ったままその言葉の続きを待つ。



『一回だけ、言うね』



そう言って握った手に一度力が入れられた後、すぐにするりと離される。
手が離れた後に、ゆっくりとあげられた彼女の顔に、これから言われるであろう言葉が頭をよぎる。



『京治くん、私と…別れてください』



俺が違和感を感じていた笑顔を見せてそう言った彼女に、何も言うことが出来ないでいる俺に一言「ごめんね」と言い残して彼女は一人で歩き始めた。
…俺は、彼女になんて返したら良かった?
一言「待って」と言えば何か変わったのか。
「何かしてしまったのか」と問えば彼女は答えてくれただろうか。
「どうして」と言えば、まだ、

……そんなこと。彼女に甘えていつも部活を優先させていた俺が悪いにきまっている。最近のあの顔は、これを言うタイミングについて考えていたからなのか。…もうその答えは聞くことが出来ないけど。








次の日になって、彼女が他に好きな人が出来たという噂を聞いて、自分にはもう関係のない話だと………そんな簡単に割り切れるはずもなく、一日中なまえの話題に耳を傾けていた。

  
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