With this, the end

お昼に送ったメッセージの返事が来ていた。
内容を確認して、ホッと胸を撫で下ろす。良かった。断られたらどうしようかと思った。届いたメッセージに返事をしてから荷物を持って教室を出る。もう何度も通った男子バレー部が使っている体育館へと足を進める。体育館へ着くと、いつもとは違う位置に腰を下ろす。もちろん部員の誰にも気付かれないような場所で、かつマネージャーの先輩にも見つからないような場所。心地よい音に耳をすませながら目を閉じる。それだけで、自分の気持ちが揺らいでしまうのにまた悲しくなった。

昨日、一晩中考えた結果なんだから、しっかりしなきゃ。
しばらくの間、じっとそうしていると中から「片付け」という声が聞こえてきてハッとして立ち上がり、その場を離れて校門まで歩く。
…足が重たい。私は、しっかりと出来るだろうか。いや、昨日あれだけ頭の中で練習したんだから、きっと大丈夫。歩きながら深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。ドキドキとしていた鼓動が段々落ち着いてきて、少し安心していると後ろから足音が聞こえてきて振り返る。



「なまえ」



いつまでも変わらない優しい声に、また気持ちが揺らぎそうになるけど、鞄を握る手にギュッと力を込めて何とか踏ん張る。



「ごめん、遅くなった」

『走ってきてくれたの?』

「…ちょっとだけね」



少し照れくさそうに言った京治くんに笑うと、いつものように手を差し出される。私もそれをいつものように握り返して、二人で歩き出す。何もかもがいつも通りだ。



『今日はどうだった?』

「いつもと同じだよ。相変わらず先輩がうるさいけど」

『先輩達、京治くんのこと好きなんだよ』

「…嬉しくない」



なんてことないいつもの会話が嬉しくて、このままずっとこんな時間が続けばいいのに、なんて思う。



『ほんとは嬉しいくせにー』

「割と本気なんだけど」



ああ、そういえば会ったばかりの頃はこんなに色々な京治くんの表情は拝めなかったなぁ、なんて少しムスっとした表情の彼を見ながら昔のことを思い出してみたり。だから、付き合う前の京治くんの笑顔は私にとってどれだけ破壊力があったのか知らないんだろうな。



『でも先輩と一緒にバレーするの楽しいんでしょ?』

「……んー、まあ、少しは」



手を繋いで歩くのには相変わらず緊張するけど、安心するから私は好き。京治くんはどう思ってるのかな。聞いてみないと分からないや。私と同じ気持ちだったら嬉しいな。
ねぇ、京治くん。



「…なまえ?」

『………』



私は、京治くんとの思い出を嫌なものにしたくないから。だから、今。まだ私の中の京治くんへの気持ちが変わらないうちに。



「どうかした?」

『…京治くん、あのね』



突然立ち止まった私に驚いている京治くんは握った手をそのままに私の顔を覗き込む。握られた手がいつもより少しだけきつく感じるのは私の思い込みだろうか。



「なに?」

『…あのね、』



もう、限界だった。これ以上隠し通せるとは思えなかった。今まで、京治くんに迷惑を掛けたくないと必死だったけど…もう。何より私が京治くんと一緒に居て、心から笑えなくなっている。京治くんは鋭いからもう気付いているんだろうなぁ。



『一回だけ、言うね』



京治くんの手を軽く握り返してから、するりと手を離す。
京治くんの声が好き、優しい手が好き。頑張り屋で、一生懸命なところも。何に対しても真剣なところも。京治くんの全部が好きです。
…ごめんね、私が弱いから。私がもっと強い子だったら、この関係を続けていけたのかな。



『京治くん、私と…別れてください』



私の精一杯の笑顔は、彼にどう見えただろうか。ちゃんと綺麗に笑えて言えたかな。
目を見開いて何も言えない彼に一言、ごめんねを伝えてから私は一人で歩き出した。後ろから彼が追いかけてくることはなかった。


初めて実った恋は、自分の言葉で終わらせてしまった。


空を見上げれば綺麗な夕日が見えているはずなのに、私には何故かざあざあと雨が降っているように見えた。

  
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