The last warning

私が、別れたら。
もしもの話。私が京治くんと付き合っていなかったら。こんなふうに優里ちゃんに恨まれることもなく、クラスメイトからも避けられることもなく、平穏な学校生活を送れていたのかもしれない。わたしと、京治くんが、

そこまで考えてハッとする。
違う違うちがう……わたし、は。



『…別れ、ないよ』



こんなことでさよならなんて嫌だ。
震える声でそう言えば、優里ちゃんの眉間に皺が寄る。



「あっそ」

『…もう、やめようよ』

「だからさ、やめるって何を?私何もしてないし」



私の言葉に一層機嫌を悪くした彼女の顔にはもう笑みはない。
こんなこと、もうやめてほしいと言ったところで何の意味もないことはわかっていたけど。やっぱり、駄目だなぁ。



「私、知らないよ」

『え?』

「ちゃーんと、チャンスは与えてあげたのに」

『なに、言ってるの?』

「…そのうちわかるよ」



そう言って背中を向ける優里ちゃんを追いかけることはせずに、その場に立ち尽くした。
そのうちわかる、って何が?
これからまだ何か起こるってこと?
優里ちゃんが最後に言った一言がどうも引っかかって気になる。…考えてもわからない、か。そう諦めた所で予鈴が鳴って慌てて教室へ戻る。


















『え?副主将?』

「うん」



お昼ご飯を食べながら京治くんが言った言葉に反応して、彼の顔を見ると想像とは違う顔をしていて箸を動かす手を止める。



『嬉しく、ないの?』

「……まぁ、嬉しくないわけじゃないけど」

『けど?』

「2年で、副主将かって思って」



今の3年生が卒業したら、副主将になるかもしれないと言う京治くんはそう言って目線を下に下げた。今の2年生を差し置いて自分が副主将でいいのかと不安になっているらしい。なんて、言ったらいいのかな。



『…京治くんの気持ちはわからなくないけど、それって京治くんの頑張りが認められて決まったことだよね?だったらもっと胸を張っていいんじゃない、かな。…私は部活での京治くんはよくわからないけど、いつもバレーに真剣に取り組んでたことは知ってるよ。先輩もきっとわかってくれるんじゃないかな?』



頑張れって、もう既に頑張ってる事を知ってる京治くんに言うのはやめておいた。本当は部活での姿も少しだけ知ってるよ。いつも周りをよく見て動いてるのも知ってる。もっと胸を張っていいんだよ。
私の言葉を聞いて黙り込んでしまった隣に座る京治くんを見ると、少し照れたように口元を手で覆っていて、ハッとする。…もしかして、私今凄く恥ずかしいこと言ったんじゃ…!



「…そんなこと言われると思わなかった」

『っえ?』

「っあー、ううん。何でもない」



ボソリと小さな声で言った京治くんの言葉が上手く聞き取れなくて、聞き返すと何でもないと言われてしまった。
自分の発言を思い返して熱くなる頬を冷ますようにして手で仰いでいると京治くんに名前を呼ばれる。



「なまえ」

『え、なに?』

「ありがとう」

『いや、私はなにも…』

「頑張ってみる」

『……うん、応援してる』




吹っ切れたように優しくなった彼の表情に嬉しくなって少し笑うと「何笑ってるの」と軽くデコピンをされた。

  
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