The doubtful situation

私の予想通り、あの日から毎日嫌がらせが続いている。
もしかしたら、嫌がらせをされても何も反応しない私が面白くないのかもしれない。前のように物を隠されるのなんて日常茶飯事になってしまったし、時々聞こえる嫌味も酷いものだった。完全にこのクラスで私一人が浮いてしまっている。全員から攻撃されているわけではなくて、ほんの数人だけだけど。他の人は私を居ないものとして扱って無視するだけだ。
この数日で分かったことは二つ。
一つは、私が虐められているというのはこのクラスの中の人しか知らないらしい。だから、あまり酷い嫌がらせはなく地味な嫌がらせが多い。
もう一つは、優里ちゃんは私には何もしてこないということだ。教室に京治くんが訪ねて来ると私よりも早く動き、彼に話しかける。少し話してから京治くんに笑ってこう言うんだ。



「待ってて、なまえ呼んできてあげる」



初めてそう聞こえた時は、ぞわりと寒気がした。
もう話さないと言われていたけど、京治くんの前ではそうもいかないらしい彼女はそう言ったあとに、ニコニコしながら私のところまで来ると明るい声で「なまえ、赤葦が呼んでるよ!」と言うのだ。私はそれに対して京治くんにバレないよう笑顔で返すしかない。後が、怖いから。
こんなのを何度も繰り返していれば、誤解もうまれる。



「ほんとに天野と仲いいんだ」



違う、違うよ。そうじゃない。仲良くなんかないんだよ。
思わず俯きがちになってしまう私の肩を抱いて彼女が代わりに答える。



「もちろんだよ!ね、なまえ」

『…う、ん』



頭では「違う」と否定しているのに、もう条件反射でそう答えてしまう。優里ちゃんが私に笑顔を向ける時は大抵何か裏がある。
そうして結局、京治くん、優里ちゃん、私、の三人で会話をするのだ。私が終始緊張でガチガチになっているのを余所に二人は普通に会話をする。…凄く嫌だけど、仕方ないと無理矢理そう思い込んで、笑顔で耐える。
気付いて欲しいのに、気付いて欲しくないなんて自分でも矛盾していることはよくわかっているけど、こんなことで彼に心配をかけたくなかった。これは私の問題だから、自分で何とかしなくてはという気持ちが大きかったから。何とか、と言っても今のところ何も策はないんだけど。

はあ、と大きくため息を吐いてから腰を下ろして膝を抱える。
キュッキュッ、と聞こえてくる音に耳を済まして目を閉じると、落ち着く。今の私にはここに来てこの音を聞くだけで心が落ち着いた。たまに聞こえてくる掛け声の中から彼の声を探してみたりするのも楽しい。



「あ、また来てる」

『!』



声に反応して顔をあげると、籠を抱えた彼女が私のほうに近付いてきた。



『先輩、部活中じゃ…』

「休憩中だからいいのー」

『そうですか?』

「うんうん」



隣に座った先輩は、あの日から私をよく気に掛けてくれているらしく、声を掛けられることが多くなった。先輩は優しくて、話すのが楽しい。京治くんと付き合っている事はまだ言っていないけど、言える時が来たら言いたいな、なんて。



「そろそろなまえちゃんのお目当ての人を教えて貰いたいんだけどなー」

『この音が好きなんですってば』

「絶対嘘!こんなに頻繁に来てるってことは相当好きなんだね」

『…なんのことでしょう』

「こんな所で隠れて見てないで、もっと見えるところに行けばいいのに」

『いいんですよ、私はここで。聞いてるだけで落ち着きますから』

「え〜」



不満そうにする先輩に少し笑うと、中から休憩終了の声が聞こえて先輩が「そろそろ行こうかな」と立ち上がる。



「じゃ、ゆっくりしていって」

『ありがとうございます』

「ちゃんと誰なのか教えてね?」

『えー…』

「先輩からの命令でーす」

『えっ、ずるいですよそれ!』

「冗談だよ、ちゃんと話してくれるまで待つ!」



じゃあね、と手を振る先輩に私も手を振り返す。
あともう少ししてから帰ろうかな、と考えてまた膝に顔を埋めた。













「あれ、遅かったね〜」

「んー、ちょっとね」

「?どうかしたの」

「…少し、心配な子がいてさ」

「心配?」

「何も話してくれないからわかんないんだけど、あんまり体調も良くなさそうだし」

「大丈夫なの?」

「どう、かなぁ…」

  
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