Gentle she

いつもと同じの教室で、同じ席に座って、同じ授業を受けているのに。全然違う。息が詰まる。私の居場所はここじゃないような気がしてならない。みんな先生のほうを見て真剣に授業を受けているはずなのに、誰かに見られているような気がしてならない。私、おかしくなっちゃったのかな。
一限目の授業の終わりのチャイムが鳴って、急いで教室を飛び出る。なんだか空気が悪くて、息がしづらい。走って中庭の人があまりいない場所まで来るとしゃがみこんで、大きく息を吐く。ドクドクと鳴る胸が痛くて右手で押さえるけど。何も変わらない。
…駄目だ、こんなのじゃ。今日一日頑張ろうって、朝決めたばかりなのに。



『…っ』



だけど、こんなの、聞いてない。
じわじわと浮かぶ涙を必死に制服の袖で拭う。
もうあの教室には、誰ひとりとして私の味方の人は居ないんだろう。毎朝声を掛けてくれていた隣の彼ですら、あんなふうに変わってしまったんだから。…ああ、そういえば彼は優里ちゃんの事が好き、なんだっけ。それじゃあ仕方ないかな。



「…なまえちゃん?」

『!』



後ろから聞こえた声に驚いて、ビクリと肩が上がる。ハッとして、目に溜まっている涙を悟られないように手で擦ってから振り向くと、バレー部のマネの先輩が立っていた。



「どうしたの?体調でも悪い?」

『っいいえ、全然!』

「なんでこんなとこに?」

『実は昨日ここで落し物しちゃって…』



咄嗟についた嘘は、バレないだろうか。
笑顔を作って先輩と話すと、先輩は私と目線を合わせるようにしてしゃがみこむ。え、と声を漏らすと先輩は右手を私の額までもってくると左手を自分の額に当てて言った。



「熱は…ないみたいね」

『え、あ、はい』

「顔色が悪そうに見えたから」

『っえ』

「こう見えても人の体調の変化とかには気付くの早いんだからね!ほら、マネージャーって選手の体調管理とかもしなくちゃいけないからさ」



なるほど確かにと納得をしていると、先輩はポニーテールを揺らしながら眉を少し下げて言った。



「悩みとか、あるなら相談してくれればいいから」

『…え?』

「誰かに吐き出すだけでも楽になることってあるでしょ?」

『………』

「今度部活見に来たときでもいいし、予定が合えばどこかで話を聞いてあげてもいいから」



あんまり溜め込むと良くないよ。
優しく、優しくそう言った先輩にまた涙が溢れそうになったけど、なんとか堪えて小さな声でありがとうございますと言った。

  
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