▼ The word which sticks in a chest
あれからどれくらい経っただろうか。もう、単独で行動するのには慣れてしまった。実際に嫌われてしまったのは優里ちゃんだけで、他のクラスメイトとは普通に接せられるから、まだ大丈夫。そう思っていた時だった。
『あ、れ…』
トイレから帰って来て自分の机の上を見てみると、さっき確かに机の上に出したはずのノートがなくなっている。一緒に置いておいた教科書はあるのに、ノートだけがない。おかしいなと思いつつ近くに居た子に声をかける。
『あの、ノートって集めたりしたの?』
「え?集めてないけど」
「てかまだ先生来てないし」
『そうだよね、ありがとう』
やっぱりそうだよね。私の記憶違いかな。まだ机の中に入れっぱなしなのかな、探してみなきゃ。彼女達にお礼を言って机の中を探そうとすると、今度は彼女達に声をかけられた。
「それよりみょうじさんさ」
『なに?』
「中学の時優里の好きな人横取りしたって本当?」
横取り
確かに彼女はそう言った。一瞬で頭が真っ白になる。待って、どうして、そんなこと。
固まって返事がすぐに返せない私を見た彼女たちは「え、まじ?」「嘘、みょうじさんが?」と口々に言う。何か、何か言わなきゃ。
『な、んで』
「この前、優里の初恋の話になって聞いたんだよね?」
「うん。しかも、優里が好きなの知ってて横取りしたんでしょ?」
『!?ちが、』
「最低」
すぐに否定の言葉を返そうとするけど、それは遮られてしまう。
初めて人から向けられた「最低」という言葉が頭の中に響く。…ああ、その冷たい視線はついこの間優里ちゃんから向けられたそれと全く同じだ。
「そんな人だと思わなかった」
「優里可哀想」
「まだその人と続いてるんだっけ?」
「ありえないんだけど」
「それでよく優里と普通に接してたよね」
私の頭の整理が追いつかないうちに、次々と私の耳に投げ込まれる悪口達は私の精神を削っていく。どうして、何で………優里ちゃんは、こうなることが分かっていてこの子達に話したんだろうか。私は、優里ちゃんが京治くんのことを好きだったなんて知らなかったよ。この前知ったばかり、なのに。
「何とか言ったら?」
ふたりの視線が私に突き刺さる。冷や汗がでる。足が震える。口が渇く。
やっとの思いで動かした腕で鞄を掴み、走って教室を飛び出る。後ろから誰かの声が聞こえた気がしたけど、足は止められない。
こんなことは生まれて初めてで、どう対応したらいいのかわからない。怖い、怖い怖い。人から向けられる嫌悪とはこんなにも胸に刺さって、こんなにも胸が痛くなるものなんだと初めて知った。
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