▼ The heart stirred
高校生活にもすっかり慣れてしまった私は、数ヶ月前と変わらず安定した日々を送っている。京治くんとも一緒に帰ったり帰らなかったり。ご飯を一緒に食べる日もあれば、食べない日もあった。
それでも幸せだと思えるくらいに安定した日々。結局、どの部活に入ろうか悩みに悩んだ挙句、まだ決められないでいる私は「帰宅部」という位置にいた。何かやりたいな、とは思うけど……決められない。優里ちゃんには「優柔不断!」だと叱られた。
そんなある日、入学してから度々京治くんに見つからないように見学をしているうちに仲良くなったバレー部のマネージャーの先輩から、今度バレー部が練習試合をするという話を耳にした。中学の時から中々見に行くことが出来なかった試合。悩んでいると、
「なまえちゃんが誰目当てか知らないけど、少しくらい見てたって気付かないって!」
と先輩が言ってくれたので、行くことに決めた。…もちろん、京治くんには秘密だ。気が散ってしまうといけないから。
『ねぇ、優里ちゃん』
「なに?」
『今度の土曜空いてたりする?』
「何でー?」
携帯を弄りながら私の前の席に座る優里ちゃんに、試合を見に行くのについてきてくれないかと話を持ちかける。
『今度ね、バレー部の練習試合があるみたいなんだけど…一緒に行ってくれないかなって』
少し恥ずかしくなりながらもそう言うと、優里ちゃんは持っていた携帯を弄る手を止めて黙る。どうしたんだろうと名前を呼ぶけど返事はない。
『優里ちゃん?』
「………」
『えと、ごめん、用事あるなら別に…』
「そんなわけないじゃん!行く行く」
『えっ、本当?』
「いいよ、土曜ね。何時から?」
私のほうを向いて笑ってそう言った優里ちゃんにホッとして、練習試合の開始時刻を告げてから待ち合わせ場所を決める。「じゃあ駅前で」と言って話が終わってからは私の頭の中にはもう土曜のことしかなかった。
そして土曜日。
待ち合わせ場所に優里ちゃんが来ることはなかった。
▼ ▲