【梟の谷】


研磨に断られてしまって、結局一人で電車に揺られている。そういえば、クロ先輩には研磨に聞けばーとかって言われたから研磨を頼りにしてたから一気に心細い。マネージャーってこんなことまでするのか。全国の運動部のマネさんは凄いな。一人で関心しながらクロ先輩から貰った一枚のメモを取り出す。書いてあるのは、体育館の場所と、あかあしさんの簡単な似顔絵。



『…こんなのじゃ全然わからない』



体育館はわかります。でもこのあかあしさんの特徴なんなんですか。似顔絵棒人間みたいだし、矢印で「癖っ毛」って書いてあるけど、そんな人いっぱいいるでしょ。もっと他に特徴ないんですか。
そんなことを考えていると、目的の駅に着いて重たい足を動かして電車から降りる。




××




私立梟谷学園高校。
今更だけど、他校の制服って目立つ。いやだな、早くこれ渡してさっさと帰って私もゲームしよう。ええと、体育館はあっちか。クロ先輩の書いてくれたメモを頼りに進んで行くとすぐに到着した。扉の向こうからボールの音と、声が聞こえる。深呼吸をひとつして、扉を開け……ようとした所で勝手に扉が開いて驚く。



『っ!?』

「あれ?」

『え、あ…えっと…!』

「その制服、音駒の子だよね?」

『!そ、そうです』

「誰かに用?」



私の顔を覗き込みながら優しく聞いてくれる、多分私よりも年上のつり目のお兄さん。…癖っ毛じゃないからあかあしさんでは、ない。



『あ、あのバレー部の方に』

「バレー部?俺バレー部だけど…音駒ってマネ居たっけ?」

『少し前に、入って』

「そうなんだ。あ、俺三年の木葉秋紀ね」

『あ、二年のみょうじなまえです』

「なまえちゃん!よろしくな」

『よろしくお願いします…?』



にこにこと笑いながら手を差し出してきた木葉先輩の手を戸惑いながら握る。良かった、優しそうな人に会えて。



「それで、バレー部の誰に、とかある?」

『あ、あかあしさん…!』

「赤葦?ちょっと待ってな」

『はい!』



ずっと頭の中で呼んでいたあかあしさんの名前をやっと呼ぶことが出来た。よし、あかあしさんが来たらこれを渡してさっさと帰ってしまおう。体育館の中へ戻っていった木葉さんは大きな声で「あかあしー」と呼んでくれた。全然常識人だよ、あかあしさん以外も。



「てか、木兎じゃないんだ?」

『?…ぼく、と?』

「あー、ウチの主将の名前ね」

『ああ、えっとクロせんぱ…黒尾先輩に、出来ればあかあしさんにって』

「さすが黒尾」



一体ぼくとさんはどんな人なんだろう。頼りにされてなさすぎでしょう。
頭の中でぼくとさんを想像し始めた時に、木葉先輩じゃない人の声が聞こえた。



「何ですか?」

「お前にお客さん」

「俺に、ですか」



扉から顔を覗かせたその人に、目を見開く。この人が、あかあしさん…。



「コレ、赤葦」

「…これ、って」

『!あ、あの私音駒の、バレー部のマネなんですけど』

「はい」

『これを、梟谷さんの監督さんに渡して欲しいんです…!』

「えっと、これは?」

『何か次の練習試合のやつって聞いたんですけど…』

「ああ…うん、わかった。わざわざありがとうございます」

『っいえ!』



なんだろう同い年とは思えない。クロ先輩よりも大人に見える。



「でもなんで俺に?」

『えっと、』

「黒尾からの指示だってさ」

「あー…黒尾さんが」

「ちなみになんて言われたの?」

『とりあえずあかあしさんに頼れって』

「木兎信用なさすぎだろ」

「…えっと、音駒のマネさんは何年?」

『あ、あかあしさんと同い年です!』

「じゃあ、呼び捨てでいいし、敬語もいいよ」

『じゃあ、あかあし、くん?』

「うん。名前は?」

『あ、そっか。えっと、みょうじなまえっていいます』

「知ってるみたいだけど、俺は赤葦京治」



フルネームは初めて聞いたよ。赤葦京治くん、か。


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