【誰ですか】


『けーんーまくーん、いーれーてー』



玄関の前でそう叫ぶと、中からガチャガチャと聞こえてドアが開く。予想通り嫌そうな顔をしている研磨に笑顔で挨拶をする。



『研磨おはよう!』

「…普通にインターホン鳴らしてよ、恥ずかしい」

『やってみたかったのー、おじゃましまーす』



靴を脱いで、揃えて家に上がらせてもらうと、研磨が小さな声で「靴揃えるんだ」と言ったのが聞こえた。失礼だなあ、それくらいの礼儀は持ってるよ。



「家の前で大きな声で叫ぶくせに…」

『ごめんってー』



とたとたと前を歩く研磨についていくと、部屋についたみたいで誘導されて中に入る。



『…え、思ってたのと違う』

「俺ちゃんと言った」



見渡すといろんな本が積み重ねてあったり、バレーボールが転がっていたりと結構物が置いてある。それにしてもすごい本の量だな。…あ、あのゲーム雑誌私も買ってるやつだ。



『研磨もこれ持ってるんだ』

「なまえも?」

『うん、いつも買ってる!』

「俺も買ってる」

『結構詳しく書いてあるよね』

「うん、参考になる」



カチャカチャとテレビにゲームをつなぐ研磨を見ながら、座って大人しく待っていると、誰かの足音が部屋に近付いて来るのがわかって研磨のお母さんかな、と何となくそう思った。



「研磨!」



バン!と荒々しく開けられたドアに吃驚して、思わず研磨の後ろに隠れる。研磨の影からそーっと覗いて見てみると、黒い髪がツンツンした大男が立っていた。誰だこの人と警戒していると、研磨が口を開いた。



「…クロ」

「は、何お前、彼女でも出来たのか」

「違うよ、なまえは友達」

『即答って傷つくな研磨くん』



思わず研磨にそう言うと、大男さんはどうやら研磨の「友達」という所に食いついたらしい。ドアを閉めて部屋の中に歩いて入ってきた。



「なんだ研磨!友達出来たのか!」

「クロ、うるさい」

「だってお前、あの研磨がだぞ」



大男さんは私たちの近くに座ると、私の顔をじっと見てきたので研磨の影に再び隠れると「ふーん」と声に出して言った。



『…研磨、だれ』

「俺の幼馴染のクロ」

「おー、音駒三年の黒尾鉄朗だ」

『っえ、先輩ですか』

「何もしねーから出てこい」

『あ、はい』



研磨の隣に座って改めて向き直る。自己紹介したほうがいいのかな。



『えっと、研磨と同じクラスのみょうじなまえです』

「へぇ、まじで研磨の友達なんだな」

『?そうですけど』

「研磨に友達ってだけで珍しいのに、女なんてもっと珍しいわ」

『そうなの?研磨』

「……別に」

『ふーん』



恥ずかしそうにそっぽを向いてしまったので、くろお先輩が言っているのは本当なんだろうな。



『もしかして、くろお先輩もバレー部なんですか?』

「おう、主将な」

『お、おぉ…主将ってキャプテンですよね!』

「まーな」

『すごいですね!』

「なまえチャンは何か部活入ってんの?」

『なまえでいいですよ!部活入ってないです!』

「へー、そうなんだ」



くろお先輩は顎に手を当てて考えると、ニヤニヤしながらこちらを見てきて、ちょっとわけがわからない。



「なまえ、ゲームできるよ」

『おー!やるやる!』

「何、お前らゲームすんの」

『あ、くろお先輩もやりますか?』

「なまえ、クロ弱いからいいよ」

「んだと、コラ研磨」

『え、先輩強そうなのに?』

「…ほら、コントローラー貸せ」



私の手からコントローラーを奪った先輩の隣に座って、研磨対クロ先輩の対戦を横から見る。研磨が溜息を吐きながらクロ先輩に「手加減しないからね」と言った所でゲームが始まった。



「クロ、そっち落ちるよ」

「ばっか!そういうことはもっと早く言えよ!」

『………』

「はい、ゴール」

「っく、」



涼しい顔でプレイしていた研磨とは違って、終始顔を歪めていたクロ先輩はあっさりと負けてしまった。…うん、これ、



『…下手くそですね先輩』

「…ちょっと、黙ろうか」

『貸してください』

「は、」

『研磨、研磨、次』

「うん」



研磨の操作で次のゲームが始まる。
真剣に画面と向き合って、淡々と進めていく。



『やった!』

「…なまえ強すぎ」



結果、僅差で私の勝ち。
喜んでいるとさっきまで黙っていたくろお先輩がぼそっと言った。



「研磨と友達になれた理由がわかったわ」

『?』


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