【早起きは三文の得】
ピピピピピピピピ…
『……うるさい』
布団から手を伸ばして手探りで携帯を掴み、アラームを止める。…もうこんな時間なのか。眠い、けど、ごはん。今日は午前が練習で、午後から練習試合だ。頑張らなきゃ。
それにしても、昨日の夜は驚いた。クロ先輩があんなことを言い出すとは思わなかった。……照れ隠しに変なこと言ったら真っ暗な部屋の中に押し込められてドアを閉められて怖すぎて死ぬかと思った。素直にお礼言えば良かった。
とりあえず、今日会ったらお礼でも言おうかな。
『え』
「よう」
目の前にクロ先輩が立っていて驚く。え、この人起きるの早くないか。
『なんでもう起きてるんですか?』
「マネだけ早起きは可哀想だろ」
『でも、今日も練習あるのに、寝不足とか』
「全然余裕」
そう言ってクロ先輩は、いつもみたいに笑う。
…昨日あんなこと言ったのに優しいな。何か裏があるんじゃないかと考える私は最低だ。
『…あの、』
「ん?」
『昨日は、ありがとう、ございました』
やっぱり顔を見て言うのは恥ずかしくて、顔を見ないで途切れ途切れにそう言うと一瞬の沈黙の後に先輩が口を開いた。
「…んだよ、ちゃんと礼言えんのか」
『言えますよ、失礼ですね』
「昨日のお前のが失礼だわ」
『…すいません』
「ま、いーけど」
なんだか今日の先輩は機嫌がいい。なんでかはわからないけど、機嫌が良いほうが接しやすいから好都合だ。
「あ、お前後で研磨起こしてくんね?」
『え?』
「めっちゃ寝起き悪いんだよアイツ。ついでに他のやつも起こしていいけど」
なにそれ、おもしろそう。
prev / next