【試合開始】
『お、ぉ…他校だ…』
「なまえ何言ってるの」
『だって私今まで他校と関わることあんまりなかったから!』
「じゃあ、挨拶してくるからお前ら練習してろ」
クロ先輩のその言葉に「ハイ」と返事してみんな体育館に入って練習を始める。ううん、私は、えっと…とりあえず、荷物を置いて、それからドリンクの準備して、え、水道どこ。
『けんまぁー…』
「…ここの人に聞けば。俺は無理」
練習に入る前の研磨に声を掛けるとバッサリと切り捨てられた。ちくしょう、研磨に聞いたのが間違いだった!
とりあえず、ボトルを籠に入れて両手で持つ。頑張れ私、みんなは練習してるんだから邪魔しちゃ駄目だ。
『っあ、あの!』
「え?」
『あ、私音駒のマネージャーなんですけど、水道の場所教えてもらってもいいですか…?』
「あぁ、いいよ!」
近くにいた人に声を掛けると、案外あっさりと了承してくれた。おお、優しい人で良かった。先導してくれるその人の後ろに付いて行くと水道場にたどり着いた。
『ありがとうございます!』
「いいえー」
『あ、もう大丈夫です!』
「…ね、今日東京から来てるんだよね?」
『?そうですけど』
「音駒って聞いたことないけど強いの?」
話しながらも着々とドリンクを作る。始めはこの作業も遅かったけど、今では慣れたものだ。質問を投げ掛けてきたその人に、うーん、と少し考えてから笑いながら言う。
『私試合やってるところはそんなに見たことないんですけど』
「?」
『強いですよ。少なくとも私のなかでは』
「え、」
『よし!出来た!』
完成したものを全て籠に戻して両手で抱える。…重い。
『あ、練習戻らなくていいんですか?』
「…あ、戻んなきゃ」
『私大丈夫なので行ってください!』
そう言うと、走って戻っていった。
よし、入部したときよりかは幾分か筋肉の付いた腕に力を入れて持ち上げる。もう練習終わっちゃったかな。
体育館の入り口まで来たところで、中から声が聞こえてきて立ち止まる。
「向こうのセッターなんか小さくね?」
「うん、それになんかヒョロヒョロしてる」
「控えのセッターなんじゃないの?」
「強いのかな?学校名聞いたことないよな、音駒高校だっけか」
その会話に少しムッとする。確かに研磨はヒョロヒョロだし、小さいけど、試合だと凄いんだからね。少し文句でも言ってやろうと口を開けた所で遮られる。
『ちょ、』
「君等の言う“ヒョロッヒョロのチビ”とは」
「うお!?」
「俺達音駒の“背骨”で“脳”で“心臓”です」
いつの間にか後ろに立っていたクロ先輩はそう言うと、今度は私に目を向けた。
「何やってんだお前」
『え、ドリンクの準備ですけど』
「もう試合始まるからさっさと歩けー」
『え、ちょ、待ってください!』
これ超重いんですからね…!
回りにいた槻木澤高校の人達に頭を下げながら先輩の後ろを必死に付いて行くと、溜め息を吐いたクロ先輩に籠を取られた。
『え』
「早くしろ」
『あ、ありがとうございます!』
初めての遠征で、練習試合だ。
「音駒高校対槻木澤高校、練習試合始めます!!」
ピーーーーーッ!!
試合開始の笛が響いてみんながコートに向かう。バインダーを持って、心のなかでみんな頑張れ、と応援する。
「行くぞ」
クロ先輩の落ち着いたその声で試合が始まった。
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