【迷子の子猫ちゃん】
『あ!ついた!ついたよ研磨!』
「…うん」
ゲームをやっていた研磨の肩を叩いてバスが目的地に着いたことを知らせると、嫌そうな顔をされた。
「さっさと降りろよー」
「うっス」
クロ先輩に返事をしてからぞろぞろと降りていく部員に続いて私も降りる。荷物が多くて少し遅くなってしまったけど。
『うぐ、』
「何モタモタしてんだ」
荷物を持って降りようとすると、全員が降りるのを確認していたのかクロ先輩が私の手から荷物を奪う。結構重いものが入っているはずなのに軽々と持ち上げるその腕はやっぱり私なんかの腕とは違って、しっかりと鍛えられた腕だ。
『っえ、大丈夫ですよ』
「お前おせーの。さっさと降りろ」
『あ、はい』
荷物を持ってくれているクロ先輩のあとに続いてバスを降りると、今日からお世話になる合宿所が目の前に見えた。うわ、なんか修学旅行みたいだな…女子私だけだけど。
「…おい、研磨はどうした?」
「え、まだバスじゃないんスか?」
『バスもう誰もいないよ?』
クロ先輩の一言で、みんなで近くに研磨がいないか探すけど、全く見当たらない。研磨この短時間でいったいどこへ行っちゃったの。
「ったく…」
『どうするんですか?』
「とりあえず研磨に電話」
『ああ!その手がありましたね!』
なるほど、と電話をかけ始めたクロ先輩を見ていると、どうやらすぐにつながったみたいで研磨と会話をしている。暫く研磨と話したクロ先輩は電話を切ってからみんなに言った。
「研磨探してくるから、みんな中入って休んでろ」
虎くんが自分たちも行くと言い始めたけど、土地勘のない人間が探しにでても仕方がないということで、クロ先輩だけで行くらしい。よし、と私もみんなと同じように荷物に手をかけると、その手をガシッっと掴まれた。
『え、』
「お前のせいで目を離したんだからお前も探せ」
『わたし別に宮城出身とかじゃないんですけど!』
「ほらほら早く歩け、この後試合入ってんだから」
さっき土地勘のない人間が出て行ったって〜とかなんとか言っていたくせになんなんだこの人は!
『クロ先輩コンビニに行くんですか?』
「いや、この中にいねーかと思って」
『研磨コンビニなんか行きますかね?』
「念のためだろ」
そう言ってコンビニを覗いたけど、中には人が居なくてあっさりと戻ってくる。改めてまわりを見渡してみると、全く見慣れない土地で。わたしの住むところとはぜんぜん違うんだなーと思う。
「どうした?」
『私もはぐれないようにしようと思いまして』
「ふーん」
クロ先輩のジャージを少し掴んだけど、クロ先輩は特に何も言わずにそのままにしておいてくれた。なんだかんだ優しいんだクロ先輩は。…あ、
『あの子研磨みたいですね』
「あ?…まじだ」
私とクロ先輩の目の前を小学生くらいの男の子が携帯ゲームをしながら歩いていった。それを目で追ったクロ先輩がぼそりと呟いた。
「…類は友を呼ぶ、って言うしな」
私もクロ先輩の後に続いてその子を追いかけた。
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