『あかあしくーん』
「なに」
『まだですかー』
「まだです」
『あとどれくらい?』
「それは木兎さんに聞いてください」
今日は京治と一緒に帰るって約束をした日。部活が終わるという時間になってから体育館へ来ると、終わっているはずなのに彼はまだボールを触っていた。私との約束を忘れてしまったのかと訳を聞いてみると、木兎先輩に自主練に誘われてしまったらしい。
木兎先輩が水分補給をしている間に外から話しかけると、木兎先輩に聞かないとわからないらしい。先輩の気分次第か…。
『んー…』
「もうちょっと待って」
『うんー…』
「次で終わるようにするから」
さっきから私に背中を向けてボールを触りながら話す京治の背中に抱きついて頭をぐりぐりと押し付ける。
「…名前」
『んー…』
「離れて」
『…やだ』
ぎゅうと腕に力を入れると、私の腕に京治の手が触れた。
「…10」
『え?』
「9、8、7、6…」
『え、え』
「3、2、1」
慌てて京治の背中から離れると、やっとこっちを向いた京治と目が合う。
そのままぐっと顔を近付けてきた京治に驚いて目を瞑ると、鼻先が触れ合うくらいの距離で止まった。
「ゼロ」
そう言って軽く唇が触れると、すぐに離れてしまう。
唖然とする私を見て少し笑う彼に何も反応出来ないでいると「もう少し待ってて」と言って私が返事をする前にさっさと木兎先輩のところに歩いて行ってしまった。
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