せっかく、彼女が家に来ているのに寝るとか信じられない。何なんだこいつ。まぁ、確かに部活終わりで疲れてるのはわかるよ。ハードな練習してるのも知ってるよ。たけどさ、家に呼んだのあんたでしょうが。
ベッドの上でぐっすりと寝息を立てている木兎は起きる気配がない。いい加減寝顔を眺めているのにも飽きてしまった。正直に言ってしまえば、構って欲しい。こんな放置プレイなんかごめんだ。
『木兎ー…』
「………」
名前を呼んでもピクリともしない。身体を揺らしてみても起きない。何をしても起きない。本当につまらない。
いい加減痺れを切らして、寝ている木兎にダイブしてみると今まで何の反応もなかった彼の目がやっと薄く開かれた。
「は……?」
寝ぼけたようにそう言って、私の顔を見てくる木兎に小さな声で「構って欲しくて」と言ってみると木兎は一度目を大きく開いてからため息を吐いた。それに軽くショックを受けていると目の前が真っ暗になる。
『!?っわ、』
「仕返し!」
自分が被っていた布団を私に頭から被せると木兎は笑ってそう言った。さっきまで木兎が使っていたからかぬくぬくしていてあったかい。布団から顔を出して木兎の顔を見てみると木兎が「つーかさぁ…」と口を開く。
「構って欲しいなら始めからそう言えよなー」
『…言ったじゃん』
「俺が寝る前!」
『………』
私だってそれが出来るなら早い段階で言っていた。そこは察して欲しい、私だってこれを言うのは恥ずかしいんだから。大体私が木兎に甘えること自体が珍しいんだから。…そんなこと木兎に言ってもしょうがないのはわかってるけどさ。
そんな事を考えながら苦い顔をする私に木兎は身体を私に向けて「ほら」と言うと手を広げる。ベッドの上でもぞもぞと動きながら木兎に自分の身体を密着させて背中に手を回すとぎゅっと抱き締められる。
「よし、もう一回寝ようぜ」
『は、』
まだ寝るのかと私が抗議しようとすると、私の背中に回された手が優しくぽんぽんとリズムをたたきはじめる。
『私別に眠くなんか…』
「子守唄も歌ってやろうか?」
『そういう意味じゃなくって』
「じゃあなんだよ」
『…もういいや』
今の木兎には何を言っても無駄だと感じてそのまま木兎に身体を預けると、木兎は気を良くしたのか私をぎゅっと抱き締めてから「おやすみ、名前」とだけ言うと直ぐに寝息を立て始めた。
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