第13話
『…わかんない』
「え、ちょっと待って、え?」
『あーもう!この話はおしまい!』
「いやいやいや!むり!え、まじなの?」
『…だから、まだわかんないってば』
「もしそうなら、応援するよ俺!」
『え、ほんと?』
「もちろん!」
つい、口を滑らしてしまった私に秀は笑って応援すると言ってくれた。まさか、応援してくれるなんて思わなくて本当に嬉しかった。まだこの気持ちにイマイチ確信は持てないけど、もしそうなら、私は透に告白をしたりするんだろうか。
「なまえ!おい!」
『…ん?』
「ほら遅刻ー!なまえのせいで入学早々遅刻!」
名前を呼ばれて、薄らと目を開けるとそこには透と秀の顔があって、ぼうっとしながら二人の顔を見つめる。そんな私を見て溜息を吐く二人の顔を見るのはもう何回目だろう。
『…おは、よう?』
「はよ!早く起きて!」
『しゅ、うるさ…』
「いーから起きろって」
『いまなんじ?』
「……9時」
『ふーん………っえ!?』
透の返事を聞いて、眠気が吹っ飛ぶ。え、9時って、え?今日入学式で…え?
「え?石川なん、むぐ!」
「ほらほらほら、急いで準備しろよ。遅いとおいてくからな」
『っえ、え、まって…!』
なんでもっと早く起こしてくれなかったの…!お母さんもお母さんだよ…!こんな日くらい早く起こしてくれればいいのに! 秀の手を引いて部屋を出て行った透を見て、慌ててベッドから起き上がって真新しい制服に腕を通す。今日から私達は片桐高校に入学する。もう高校生だなんて信じられない。私は全く成長してないなぁと、セットしたはずの目覚まし時計を睨みつけた。
「あと10秒なー」
『え!?ちょっ、』
ドアの向こうから透のカウントダウンが聞こえて焦りながら鏡の前で髪のセットをする。鏡に映るブレザー姿の自分に少しニヤける。中学の時はセーラー服だったからブレザーに憧れていた。今日から毎日この制服が着れるんだ。
『お、おまたせ…!』
「ギリギリだな」
「てか、まだ9時じゃなくない?」
『……え?』
「だってこうでもしねーと、起きねーじゃんなまえ」
「石川時計読めなくなったのかと思って焦った」
「んなわけないだろ!」
『え、まだ9時じゃ…あ、』
そういえばさっき目覚まし時計を見たときに9時じゃなかった気がする。どれだけ寝ぼけていたんだ私は。はあ、と大きなため息を吐くと二人に笑われた。
『ひどい…』
「ひどくはない」
「ほんとなまえ成長しない!」
『…朝だけだもん』
「はいはい」
なんか無駄に疲れてしまった。朝ごはんはもういいや、とそのまま二人と一緒に家を出る。 中学とは違う通学路をまた三人で歩いているのは、なんだか変な感じだな。緊張、するな。中学のときみたいに知り合いばっかりじゃないからなぁ。大半は知らない人なんだろうな。友ちゃんとも高校は離れてしまったから余計心細い。頭が良い友ちゃんは私立の高校へ行ってしまった。
「今日から高校生かー」
「石川勉強頑張んないと」
「…お前らも同じだからな」
『また難しくなるのかなぁ』
「そうじゃない?」
『中学でもついていくのギリギリだったのに…』
「石川がいるから大丈夫だって!」
「さっきから秀お前なんなの!?」
ドキドキと今までに何度か感じたことのある緊張に包まれながら片桐高校に足を踏み入れた。
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