第8話
「ねぇ、みょうじさん」
帰りのHRが終わって、帰るために鞄の中に荷物を詰めていると私の机に影が落ちて、上を向けばあまり会話をしたことがないクラスメイトが立っていた。
『なっ、なに…かな』
ああ、少し声が裏返ってしまった。恥ずかしい。 ドキドキしながら返事を待っていると、彼女が口を開いた。
「い、石川くんと幼馴染ってほんとう?」
『…へ?』
「あ、えっとね、他のクラスの男子から聞いて」
『他の、クラス』
あ、もしかして秀のクラスの人達かな、なんて考える。きっとこの間のジャージの時に秀が他の人に言ったのかな。
『あ、うん、そうだよ』
「!…あのさ、お願いがあるの!」
『お願い?』
「うん」
にっこりと笑った彼女は鞄の中からピンク色の手紙を取り出すと、それを私に差し出す。もちろん、これは私宛に書いたものではないだろう。そっと受け取ると、可愛らしい字で「石川くんへ」と書いてある。手紙から視線をずらして彼女のほうを見ると頬を赤く染めて恥ずかしそうに言った。
「えと、それ石川くんに渡してくれないかな?」
『え?』
「みょうじさん幼馴染らしいし、渡しやすいかなって」
ね?と首を傾げながら言った彼女に、少し考える。 こういうのは自分で渡したほうがいいんじゃないのか、とか。全然話したことのない私に頼むのってどうなんだろう、とか。……透が、この子と付き合ったらどう、しよ。
「じゃあ、よろしくね!」
『っえ、』
小走りで教室から出て行った彼女は廊下で待っていた友達と合流して、帰っていった。…受け取って、しまった。はあ、と溜息を吐いてから手で持っている手紙を折り曲げてしまわないように丁寧にファイルの中に入れてから席を立つ。
「なまえー、かーえろ」
『あれ、透は?』
「部活でしょ」
『あ、そっか』
「何か用事だった?」
『…んー、まあ、そうなのかな』
「なにそれ」
ていうか、透すごいなぁ。モテるんだな。 手紙を渡すのを頼まれたのは初めてだけど。もしかしたら、透を好きな子はもっとたくさんいるのかもしれないな。まずバスケ部自体人気あるしな。
『?』
「…なまえ?どうかした?」
じわじわと胸が疼いた気がした。
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