第7話
『秀』
少し控えめに発せられたその声に、すぐに反応して友達との会話を切り上げる。
「ちょっと、ごめん!」
「なに、誰か来たのか?」
「あれでしょ、みょうじさんだっけ?」
廊下のほうへ歩いていけば、紙袋を持った幼馴染のなまえがいて、周りが気になるのか少し俯いている。昔からなまえは人の目をよく気にする。話せば面白いのに、自分から話しかけるのが苦手らしい。
「どした?」
『これ、朝渡すの忘れてて』
「あー、体操服!」
『ちゃんと洗ったからね!』
「別にいいのに」
『そんなわけにはいかないでしょ、汗かいたし』
ほら。さっきまで俯いていた顔もすぐに上を向いて笑顔で会話ができる。…まあ、こうやって普通に会話できるのも俺と石川を含んだ数人だけなんだけど。
『あ、今日委員会あるから先帰っていいからね』
「え、そうなの?今日石川の家行くんじゃなかったっけ」
『え!?それ今日だったっけ!』
「確かそうだった気がする!」
『えー…、遅くなってもいいなら行こうかなぁ』
「石川に聞いてみれば?」
『ん、そうする……あ、ごめんね話中断させちゃって』
「平気平気」
『じゃ、教室戻るねー!授業がんばろ!』
「おー!寝んなよ!」
『寝ないよ!』
足早に帰っていくなまえを見送って、友達のところに戻ればみんな不思議そうな顔でこっちを見ていて、俺も首を傾げる。
「え、なになに!?」
「いや、みょうじさん普通に話すんだなーって思って」
「話すよ普通に!」
「なんで井浦あんなに親しそうなわけ?」
「幼馴染だから?」
「まじか」
「あ、でも小学校からだからそんなに日は経ってないか」
「へー」
なまえから渡されたジャージを適当に鞄に押し込みながら、そう話していると一人が「で?」と話を続けてきた。え、でってなに。
「は?」
「ただの幼馴染なんだ?」
ニヤニヤしながら聞いてくるそいつに、わけもわからないまま「そうだけど?」と言えば、一瞬驚いた顔をする。
「なんだよつまんねー」
「え、なに?何が言って欲しかったんだよ田中ぁ!」
「お前うるさいからもういいわ」
「ちょ、それひどくない?」
「さーて、次の授業の準備すんぞー」
その言葉を合図にみんな自分の席に戻っていって、なんなんだよー!と叫んでいたら鐘が鳴って、教室に来た先生に「井浦声でかいぞー」と言われたから大人しく自分の席に着いた。 幼馴染は、幼馴染でしょ?
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