第6話
「あ、みょうじさんこれみてみ」
『?井浦くん、なにもってる…っ!?』
「じゃーん!」
『っや、やだやだやだ!こっちこないで!』
「えー?なんで?」
『だ、だって、それ、か…か…!』
「カエル!」
ぴょん、と俺の手から綺麗にジャンプした小さな雨蛙はみょうじさんの顔に目掛けて飛んでいった。すぐに聞こえた大きな叫び声に、俺も驚いていると俺の頭に何かがガツンと当たった。
「いってえ!?」
「ばっか!おまえ、秀!」
『う、うわあああん!』
「なんでなぐんのいしかわあああ!」
「みょうじさんないてるだろーが!」
俺の頭を思い切り叩いた石川は、俺の頭は心配することなく、みょうじさんに近寄って頭を撫でながら大丈夫かと聞いている。なんで俺の頭の心配はしてくんねーの、みょうじさん頭に怪我なんかしてないよ。
『っ、か、カエルは…?』
「もういないから、だいじょうぶだ」
『あり、がとう、石川くん』
「いいよ、ごめんな秀が」
『っううん、だいじょうぶ』
「ほら、秀もあやまれって」
みょうじさんから目線をずらして俺の方をみた石川を少し睨んだけど、素直に謝らないともう一発殴られそうだったから、みょうじさんの方を向いて謝る。
「…ごめん」
『だ、いじょうぶ』
―――… ドン!
「いっ!?」
「おにいちゃん!おかあさんがはやくおきなさいって!」
腹に強い衝撃がきて、思わず声がでた。目の前にはなまえじゃなくて、妹の顔があって、さっきのは夢だったのかと冷静に考える。…そりゃそうだ。だってもう中2なのに凄い幼かったもんな、俺も石川もなまえも。
「うん…うん…わかったから下りて、もと」
「はやくしないとおこられるからね!」
「うん」
ゆっくりと上半身を起こして頭を掻く。それにしても懐かしい夢だったなあ。なまえが引っ越してきたばかりの時かな。なまえにちょっかいをかけて楽しんでいた俺を石川が毎日のように怒ってたのを覚えている。
「カエル嫌いなんて知らなかったし、しょうがないよなー」
立ち上がって布団を畳んでから、夢の中で殴られた場所を労わるようにして撫でたけど、やっぱり何ともなってなかった。
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