嘘吐きブルメリア



「嫌い」

何、いってんの。

「なまえなんて、大嫌いだ」

ちょっと待って。
そう、手を伸ばすけれど秀に手は届かなくて。
付き合って、まだ3ヶ月だよ。
手も繋いでないじゃない。



---



「起きてーねえーお昼だよー」

『んー…しゅー…?』



ぼやけた視界に入ったのは優しく笑う秀の顔。
あ、夢だったんだ、と瞬時に判断した。
私の頭を撫でる手が気持ちよくて身動ぎをする。



「さすがに起きてね?」

『うん…』



起き上がって髪を手櫛でとかすとあくびをひとつ。
ああ、夢でよかった。
とかしきれなかった髪の毛を直してもらいながら覚醒しきらない頭でそう思う。



『ねえ、』

「んー?」

『大嫌いって、いってみて?』

「?誰に?」



無言で私を指差すと困ったように笑われた。
珍しく秀の片眉が下がった。
無理ってことなのだろう。



「言えるわけないでしょっ」

『嘘でも?』

「うそでも」



そっか。
そう言って、秀に抱き付く。
香水とかじゃなくて石鹸の香りが鼻を掠めた。
いきなり抱き付かれて少しシャイボーイな秀はあたふたしてるけど、そんなの気にならないくらいどっと安心した。
秀は大嫌いなんて、似合わないもん。



『秀ー』

「は、はい?」

『私のこと好き?』

「…ばーか」

『あ、ひどい』



そう言うけれど、私の声色は明るい。
照れたばーか、は似合うのね。




×