姫と彦星




『一年、か』

「へ?何が?」



隣でそう言った井浦くんに小さく笑って、答える。



『織姫と彦星の話』

「あー、今日七夕だっけ」

『小さい頃は短冊とか書いてたけど、今は全然』

「俺も。よく書いてたなぁ」



私の顔を見ずにそう答えた井浦くんは、さらさらと日誌を書き進める。
織姫と彦星。小さい頃は可哀想だなぁ、なんて思ってたけど。今思うとロマンチックな話なんだろうな。素敵、だとは思うけど。自分に置き換えたら、凄く耐え難いことなんだろう。だって、好きな人に会えないのは悲しいから。それがまた、お互いに好きあっているのなら尚更。



『悲しい話だよね』

「織姫と彦星?」

『うん』

「んー、まぁ、確かに」

『井浦くんは悲しくない?』

「考えようによる!」

『?』

「ほら、いつも一緒にいるのより、何日かぶりに会ったほうが感動する、みたいな」

『あぁー』

「まぁ、どっちにしろあんまり会えないのは嫌だけどさー」



そう言って顔を上げて笑う井浦くんに、そうだね、と言って返す。
もしかしたら、織姫と彦星は、待っている時間も楽しいのかもしれない。寧ろ二人にとっては一年なんてあっという間なのかもしれない。そうだとしたら、いいなぁ。



『井浦くんも好きな人いるの?』

「え!?」

『なんとなく。井浦くんにも織姫みたいな相手いるのかなぁって』

「……いると思う?」

『え、教えてよー』

「…彦星と織姫ほど離れてはないけど。学校に来て会えるのが楽しみだなー……なんてね」

『……え、』



よし、書き終わった。
荷物を纏めて帰ろう、と言った井浦くんに驚いて、やっぱりいるんだと大きい声でそう言った私のほうを見て困ったように笑った彼の顔は少しだけ赤かった。



「…今日、星見に行かない?」






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