『先生はさ、教師として終わってるよね』
ポツリと乱れた制服を直しながら、そう呟いた。煙草を咥えていた先生は一瞬驚いて、その後に少し笑った。
「みょうじも高校生として終わってるけどなー」
『えー。先生が誘ったんだよ?』
「それにのっちゃうみょうじも悪いってこと」
別に付き合っているわけでもない私達は、教師と生徒という関係でありながら、こういった関係を続けている。先生が冗談半分に言った言葉に私がのったのが始まりだった。まさか、こんなにも関係が続くとは思っていなかった。私はもう来年卒業だ。
『先生』
「んー?」
『煙草くさい』
「おー、ごめんな」
安田先生が咥えている煙草をぱっと取って、代わりに私の唇を押し当ててやった。
『うわぁ、煙草の味だ』
「吸ったことないだろ」
『ないけど。だいたいこんなのかなーって想像はしてた』
私が卒業したら、この関係もいい加減終わりだな。まず会う機会がなくなるし。私は別にいいんだけどさ。
『私が卒業したら、新しい子探すの?』
「…いや、まだそこまで考えてない」
『へー』
「そうか、みょうじももう卒業か」
『寂しくなっちゃう?』
「もちろん」
『嘘だね。多分三日経てば忘れるよ』
「そんなことねーよ」
そんな話をしながら、携帯を開いて時間を確認する。まだ5時を少し過ぎたくらいで、外からは運動部の掛け声などが聞こえてきた。んー、どうしようかな。
『そういえば先生さぁ、なんで私に声かけたの?他にも可愛い子いるでしょ?』
「んー…タイプだったから?」
『何が』
「顔」
『うわ、最低。顔で決めたの』
「みょうじはなんで誘いにのったんだよ」
『…おもしろそうだったから?』
「なんだそれ」
笑う先生に私も笑って携帯を閉じて椅子に座る先生に近づいて膝の上に座る。
「明日も学校あるんですけど」
『いいじゃん。もうすぐ私卒業だよ?思い出作りしなきゃ』
「俺との思い出ほしいの?」
『もう、私の高校生活先生のおかげで青春の一つもできなかったんですから』
「え、俺のせいなの?」
そう言った先生の言葉を無視して私はもう一度先生と唇を重ねた。
♯愛なんていらない。
(私も先生と離れるのちょっと寂しいかも)