私の幼馴染でもあり、彼氏でもある進藤晃一は頭は良いくせに問題ばかり起こしているせいで留年して私の一つ下、つまり二年生である。それを知った時は、もう呆れしか感じなくて盛大なため息を目の前で吐いてあげたら、少し眉を下げて笑いながら「ごめん」と一言謝罪された。私に謝罪をしたところでもうどうしようもないことなんだけれど。



「なまえばいばーい」

『ばいばい』



放課後の人が少なくなった教室で荷物をまとめた私は階段を下りて、二年の教室へ向かう。普通は彼氏が迎えにくるんだろうけど、晃一が三年の教室まで登ってくるのは二度手間だから、と私が提案してからはずっとこんな日々が続いている。教室とは違って寒い廊下を一人で下りて二年の教室に。



『こーいち』

「お、きたきた。じゃあ、またなー」



教室で数人の後輩と親しげに話す晃一も、随分二年生に馴染んできたみたいだ。この光景を見るのも慣れてしまった。晃一と合流して今度は二人で歩く。



「うっわ、廊下寒い!」

『ね、教室から出たくなくなる』



下駄箱で靴に履き替えた所で自然と手が握られる。晃一の手はいつ握っても暖かいから不思議。



「相変わらず冷たいなー」

『心が暖かいからかな!』

「それ俺の心が冷たいって言ってんの?ん?」



反対の手で頬をぐにっとつままれる。こちらの手もやっぱり暖かくて思わず頬が緩むと、なんで笑ってんの、と晃一も笑った。



『ところで晃一くん』

「なに?」

『来年は進級できそう?』

「流石に二年は…………大丈夫だろ」

『なにそれ。流石に二年は待てないよ私』

「そんなこと言うなよー」



晃一と一緒に卒業出来ないのでさえ嫌なのに、また留年なんてことになったら最悪だ。まぁ、多分大丈夫なんだろうけど。晃一が同じ学年から居なくなってからの学校生活は、何か物足りなくて、少し寂しい。いつも一緒に話していた休み時間がなくなったり、教科書を借りることが出来なくなったからだろうか。



「俺が居なくて寂しい?」

『そうだね、ちょっとだけ』

「ちょっとだけかー。俺は大分物足りないんだけど」



そう言った晃一に少し恥ずかしくなって、握られた手に力が入ってしまう。なんだ、晃一も同じこと考えてたんだ。



「なまえが同じ階に居ないのとか、すげー違和感」

『ふーん?』

「今頃誰と話してんのかなー、とか考えるわけよ」

『……私は晃一のが心配だけど』

「なんで?」

『だって晃一後輩からモテモテでしょ』

「えー?そんなことねーって」



声を出して笑いながらそう言う晃一は何も分かっていない。いつも教室で一緒に話をしているあの子はきっと晃一のこと好きなんだろうな。ふー、と息を吐けば白色の息に変わって、少し楽しい。



『あと少しで卒業だなぁ』

「第二ボタン予約で」

『それ逆でしょ?』

「俺のはあと一年したらあげる」

『…絶対だからね』

「おー、約束!」



握られていた手を離されて、代わりに小指を差し出される。同じように私も小指を出して指切りをする。もう私の手は、晃一と変わらないくらい暖かくなっていた。







♯ゆっくり歩く。


(この時間を大切に)


|

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -