「ごめんなまえ!遅くなるかもだったらメールする!」

『わかったー』



そう言って友人は走って教室から出て行った。いつも一緒に帰っている友人は何か部活で用事ができてしまったらしく、一旦部活へ行って時間がかかるようだったら私に先に帰っていていいというメールを送ってくれるらしい。帰宅部の私は用事なんて何もなく、適当に教室で携帯を弄りながら待つしかない。さっきまで賑やかだった教室も部活に行く人達が出て行って静かになっていた。



『暇、だな』



机に顔を伏せて静かにしていると、外から部活動の掛け声や笑い声が聞こえてくる。窓から入ってくる風が心地よくてそっと目を閉じた。




××




「……みょうじさん、みょうじさん」



誰かに肩を叩かれて、目を開ける。…あれ、私なにしてたんだっけ?



「みょうじさん」

『っうわ、はい!』



倒していた体をばっと起こして、声の主を見て驚く。



『あれ、浅羽くん…?』

「あ、ごめんね起こして」

『え、あ、いや…大丈夫』

「それで、みょうじさんもうこんな時間だけど大丈夫?」

『…え?』



浅羽くんのその言葉で、はっとして教室の時計を見ると既に6時を過ぎていた。携帯を鞄から取り出してメールを確認してみれば4時30分くらいに友人からメールが届いていた。…先に帰っていいよ、って。



『…やっちゃった』

「大丈夫だった?」

『うん、ごめんね浅羽くん。起こしてくれてありがとう』

「いや、俺はたまたま忘れ物を取りに来ただけですから」



なるほど。こんな時間まで学校に残らないもんな、普通。いつも、一緒にいる人達とすぐ帰るもんな。
外を見れば、既に夕日が落ちるときで暗くなりつつあった。早く帰ろうと急いで荷物をまとめて鞄を肩にかけると、浅羽くんに声をかけられる。



「良かったら、送りましょうか?」

『え?』

「もう真っ暗ですし、みょうじさんが良かったらですけど」



私と浅羽くんは今年同じクラスになったばかりで、話すこともなく、話す気もなかった。…だって浅羽くんは私の学校では有名人みたいなもので、双子の弟も同じだけど、女子に人気がありすぎて話す機会なんて全くなかったし、話し掛ける勇気もなかったから。だから、これは、なんというか…。



「みょうじさん?」

『お、お願い、します』



うわ、言っちゃったよ私…!
起こされたときは何やってんだ自分、とか思ったけど……寝てて良かった。浅羽くんと二人きりで話せる機会なんてもうないだろう。明日学校に来たら友人に自慢しよう。きっと羨ましがるに違いない。
二人で並んで道を歩く。まさかこんな日がくると思ってなかった。思わずにやける頬をおさえていると、浅羽くんに話しかけられる。



「今日は友達と一緒じゃなかったんですね」

『へ…?』

「いつも一緒に帰ってるから」

『あ、うん。今日はなんか部活入っちゃったみたいで』

「そうなんですか」

『浅羽くんは何か部活入ってるんだっけ?』

「茶道部に」

『あ、そうだ。松岡くんもだよね』

「はい」



そういえば、寝る前に部活動の楽しそうな声が聞こえてきたっけ。なんか、いいな。私も何かに夢中になれたら楽しいだろうな。



『…私も何か部活入ろうかな』

「え?」

『あ、なんか楽しそうだなって』

「…んー、確かに楽しいですけど」

『うん?』

「無理に部活に入らなくても自分のやりたいことをしたらいいと思うよ。俺の近くにも部活に入ってない人達いますけど、全然楽しそうですし」



そう言って私のほうを向いて薄く笑った浅羽くんに頬が熱くなる。う、わ、笑ってるの初めて見た。



『…浅羽くん、ありが、』

「ゆーうーたー」



お礼を言おうとすると、浅羽くんの背中にもう一人の浅羽くんが……ってややこしいな。



「ちょっと、祐希重い」

「何処まで忘れ物取りに行ってたの。遅いから見に来ちゃったよ」

『え、あ、ごめんなさい!私が…』

「みょうじさんは悪くないよ。俺が言ったんだから」

「……みょうじさん?」

「俺が送るって言ったんだよ、ちょっと、ほんと重いから」

『…あ、私もう家近いから大丈夫だよここで!』

「そう?」

「じゃあ、帰ろう悠太」

「ちょっと、祐希……あ、みょうじさん」

『?』

「また明日」

『!うん、』



そう言って手を軽く振る。
……また明日、って。また明日って…!!
うわぁ、どうしようどうしよう、なんか今日凄いぞ私!話せただけでも軌跡なのに、一緒に帰ることまでしちゃって……嬉しすぎて死ぬ。








♯並んで歩いた帰り道。

(明日の学校楽しみだなぁ)

(ねぇ、悠太。みょうじさんってさ)
(祐希、早く帰るんでしょ。早く歩いて)
(えー、聞いてよ、みょうじさんってさぁ)


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