『えっと…』
「何言ってんすか狩沢さん!」
「ゆまっちこそ何言ってるの!この子には絶対こっちのほうが…」
「静かにしやがれ!」
「お前ら、いい加減に…」
目の前で言い合いをする4人を眺め続けて早10分。言い合い、と言っても実際言い合いをしてるのは二人だけなんだけど…。
「…悪いな、呼び止めちまって」
『え、あ、大丈夫です…!』
帽子を被った男性にそう言われて、慌ててそう答えるとすこし笑われた。うわぁ、恥ずかしいな、なんて自分の頬に手を当てて赤くなった頬を隠す。そんな私を気にせずに帽子を被ったお兄さんは続けて言った。
「これから何か予定とかあるのか?」
『へ…?よ、予定は…特に…』
「そうか。昼飯はもう食ったか?」
『あ、食べて…ないです』
「これからコイツらと寿司食いに行くんだが、一緒に行かないか?」
『お寿司、ですか?』
え、だって初対面だし、迷惑なんじゃ…。
そう思ってお兄さんの顔を伺うように見上げると、少し困ったように笑ってあいつ等が迷惑掛けたお詫びだ、と言った。それでもなんだか申し訳なくて返事に困っていると、さっきまで言い争っていた二人が此方に顔を向けた。
「ちょっと門田さん!何勝手に彼女に話し掛けてんすか!」
「ドタチンもしかして…ロリコン?」
「っ違えーよ!」
「ああもう、うるせーな!昼飯はどうすんだよ!」
「露西亜寿司。行くんでしょ?」
「ああ、そのことなんだが。今一緒に食わねーか誘ってたところだ」
「うわぁ、門田さんさっそくナンパっすか?」
「いい加減にしろよ?お前ら」
『あ、あの、私が一緒に行っても迷惑なんじゃ…?』
「迷惑なんかじゃないよー!一緒に居られる時間も増えるしね!」
「そうっすよー!何を着せるのかもう少し話す必要もありますしね!」
「…だから、お前ら」
「お前ら勝手に言い合ってるけど本人に許可取ったのかよ」
「「…あ」」
『あ、はは…』
×××
今日私は休日なのに朝早く起きてしまって、せっかくだからお買い物でも行こうかなって、家を出て、フラフラ歩いていたら「きゃ――!なにこの子!」って女の人に声かけられて困惑していると、あとから来た男の人に「なんなんすかその子!」って声かけられて、いつのまにか一緒にお昼ご飯……って、あれ、私何しようと思ってたんだっけ…?
「あぁ、そういえばまだ名前聞いてなかったな」
『あ、みょうじなまえ…って、言います』
「なまえちゃん!なまえちゃんって呼んでもいい!?」
「ずるいっすよ狩沢さん!俺も呼んでいいっすか!?」
『ど、どうぞ』
「俺は門田京平だ。よろしくな」
『あ、よ、よろしく』
ただいま車の中にて今更ながらの自己紹介タイムです。ちなみに、言い争っていたお姉さんお兄さんは「狩沢さん」と「遊馬崎さん」。運転手のお兄さんは「渡草さん」。そして、帽子のお兄さんは「門田さん」というらしいです。
自己紹介を終えて、少し落ち着いてくると、狩沢さんと遊馬崎さんがなんだか熱っぽい視線を向けてきたので、少し体が強張る。ちなみに私の左隣に狩沢さん、右隣に遊馬崎さん、です。
「はぁ…なまえちゃんってば、ほんとに二次元から飛び出して来たんじゃないかってくらいかわいい」
「ほんとっすよねぇ…本当は二次元の世界からトリップしてきた女の子なんじゃないっすか?」
『と、とりっぷ…?』
「あぁ、悪いなこいつらの言ってる事は無視すりゃいいから」
『あ、はい…?』
困惑している私に、助手席に乗った門田さんがそう声を掛けてくれる。とりあえず、聞き流せばいいのかな…?
「なまえちゃんコスプレとか興味ないかな?」
『す、すみません…そういうのあんまり詳しくなくって』
「コスプレはもう諦めたほうがいいっすよー」
「だってこんなに可愛いのに勿体ないじゃない!」
『か、可愛くなんかないです…!』
「なに言ってるの!?」
「そうっすよ!もう連れて帰りたいくらいっす!」
「おい、遊馬崎。それ犯罪だぞ」
「なに言ってるんすか渡草さん、冗談っすよ冗談!」
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよな、俺だけか?」
「それで、コスプレの話なんだけどね?」
『は、はい』
「おい、いい加減やめとけって」
「ドタチンはなまえちゃんに何か着て欲しいものってないの?」
「俺は別に何もない」
「えっ、着て欲しいものないってもしかして…裸…!?」
『え、はっ、裸…!?』
「そんな事一言も言ってないだろ!」
助手席から後ろを振り返って顔を赤くしながらそう叫ぶ門田さんを見て狩沢さんと遊馬崎さんはお腹を抱えて笑っている。あ、あ、門田さん怒っちゃうよ…!何か、何か言ってフォローしなきゃ…!
『か、門田さん…!あ、あの私別に裸でも大丈夫です…!』
「「「「え?」」」」
あ、あれ。今わたし、あれ…?
ぎゅっと拳を握ってそういえば、バッと私のほうを向く皆さん。赤信号だから渡草さんも後ろを振り返っている。……なんてタイミングの悪い信号だろう。ぼぼぼっと赤くなる顔を両手で覆って体を丸める。な、なに言ってるんだ私…!
「あ、いや、俺はそんなつもりじゃなかったんだが…」
「お、おー、だよな」
「やだもう、そんなこと言ってるとお姉さんが脱がしちゃうよ?」
『!?』
「…だから、やめろって狩沢」
「門田さんってほんと年下に好かれるタイプっすよねぇ。もう懐かれてるじゃないすかー」
やっと進み始めた車の中で、私の頬の赤さは消えなかった。
「露西亜寿司、着いたぞ」
♯誰か私の頬を直して。
(そういえばなまえちゃんは露西亜寿司初めて?)
(…あ、はい、そうでしゅ…っ!?)
(きゃああ、噛んだ…!)
(萌え!)
((うわああああ、もう消えてなくなりたい…!))
(ここ結構うまいぞ)
(お、サイモン。今日は五人なー)