俺の間違いでなければ、俺には彼女がいる。
付き合って1年くらい経つ…いや、あんま覚えてないけど。多分もうそれくらい経ったんじゃねーの。告白してきたのは向こうで、俺も好きだったし、付き合い始めた…わけだけど。友人関係のときと特別変わったこともなく、他の友人からは「え、お前らまだ続いてたの?」と言われるくらいだ。別に仲が悪いわけでもない。普通に接するし、普通に話すし。全てが"普通"ってだけで。
『ねぇ、マキオー。これの続きどこにあるのー?』
今だって、俺の部屋で二人でいるし。
…恋人らしいことは何一つとしてないけど。
「…これ」
『わー。ありがとー』
俺のベッドの上に寝転がりながら漫画を読むなまえは、たまにこうやって俺の家に来て、だらだらとして、暗くなってくるとあっさりと帰る。
『……私の顔に何か付いてる?』
「いや、別に」
『なんだよー、何かあるなら言えよー』
「…あのさぁ」
『うん』
読んでいた本から目を離して俺に視線を向ける彼女に、少し不安を抱きつつも質問する。…俺の想像してる答えじゃなかったら泣くかも。
「俺ら付き合ってる…んだよな…?」
そう言えば彼女は一瞬驚いたような顔をしてから、俺に言った。
『え、違うの…?』
「!だ、だよな」
俺の勘違いじゃなくてよかった。
一人でほっとしてると、今度は彼女から質問された。
『なんでそんなこと聞くの?』
「…いや、だって俺らなんつーか、普通じゃん」
『は?』
「だから……恋人らしいことしねーなー…って」
なんとなく恥ずかしくなって、ぼそぼそとそう言うと、なまえはだんだん顔がにやけてきた。
『へー』
「…いや、光が言ってたんだよこの前!」
『へー、ふーん』
慌てて付け足した、その言葉は嘘だとわかっているのかまだにやにやとしているなまえに背中を向けて赤い顔を隠した。…なにやってんだよ、まじで。言うんじゃなかった…!
『あれ、なんでそっち向くの』
「…別に」
『まだお話の途中でしょーが』
「いや、もういい」
『…照れちゃって』
「っ、ちげーよ!」
『恋人らしいって何すんの?』
「は、はぁ?」
『とりあえず手でも繋いどく?』
そう言って右手を握られて、指が絡まる。
呆然とする俺に対して、表情に変わりのない彼女。
「え、は…?」
『うわぁ、これ恋人みたい』
そう言って俺の方を見てにっこりと笑った彼女に、少しだけ顔が熱くなるのを感じて、口に手の甲を当てる。…いや、いつまで繋いでんだよ。
『今度からこれで一緒に学校帰る?』
「!?いや、それはさすがに恥ずい…!」
『えー、いいじゃん。これで帰ろうよー』
「いきなりなんだよ…」
『だってマキオがしたいって言うから』
「だから、あれは俺じゃなくて」
『嘘だね。マキオすぐ顔に出るから』
「………」
『それに、マキオの手あったかい。私冷え性だから助かる』
そう言ってぎゅっと握られる手に、どんどん速くなる鼓動。なんだこれ、俺どうかしたの。直視できない彼女の顔をチラリと見れば、少しだけ頬が赤くなっていて、なんか告白された時を思い出した。
♯一年目からやっと始まる。
(え、何お前ら手繋いでどうしたの?)
(いや、これは…!)
(どうどう?恋人に見える?)
(いや、普通に恋人に見えるけど谷原大丈夫か)
(ひゃー、恋人に見えるって!やったねマキオー)
(……そうだな)