「…は?」

『うん?』

「いや、ちょっと今なんか変なこと言わなかったスか!?」



俺の耳が可笑しくなければ、今彼女は、かなり可笑しな事を言った。確認をしようと慌ててそう聞き返すと彼女は特に驚いたようすもなく、きょとんとした顔で答えた。



『青峰くんの家に遊びに行って、一緒にゲームしたんだよ』

「!?」



楽しかったなぁ、なんて言いながら紙パックのジュースをごくごくと飲む彼女は俺の彼女であって、決して青峰っちの彼女じゃない。だから、可笑しい。なんで俺の居ないときに、他の男の家に遊びに行ってんスか!?しかも青峰っち!?



「ちょ、それいつの話」

『涼太が仕事行ってたとき…この間の部活休みの日かな』



確かにあの日は久しぶりの部活休みで、マネージャーであるなまえももちろん休みで、俺も休みのはずだったんだけど、急に入った仕事のおかげでせっかくの休みが潰れて、しかもなまえに会うことすらなくて……え、え、俺が知らない間にいつ約束したんスか、それ!



「なまえ…!」

『え?』

「なにやってんスか!だめっスよ!青峰っちなんて特に…!」



これが『先週紫原くんとケーキ食べに行ったの』という話だったら、俺だって「あ、そうなんスかー」で流せたけど!青峰っちは駄目だ、絶対に駄目だ。あんな、おっぱい星人となまえを一緒に置いておいたら、間違いなく何かが起こる。何かっていうのは、その、つまり…そういうことで。



『それでね、青峰くんゲーム凄い強くて、私じゃ相手にならないとか言うんだよ。自分で呼んだくせに』

「……へぇ」



その言葉に頭を抱えた俺に気にせず話し続けるなまえ。
前々から思っていたけど、彼女には危機感がなさすぎる。この間なんて『田中くんに付き合ってって言われたから、どこに?って聞いたら、なんでもないって言われたー。結局どこに行きたかったんだろう?』と言っていた。はっきり言って漫画の中だけだと思ってた、そんな返事をするなんて。どう考えても告白しかないだろそれ。



『それでね、』

「なまえ!」

『はい?』

「ちょっと、よく聞いて欲しいっス」

『なーに?』



ふにゃりと笑った顔に俺の頬も自然とゆるんでしまった。…いや、そうじゃなくて!俺はなまえの手をぎゅっと握って、なるべく真剣な顔で言った。



「いいスか?青峰っちは友達以前に男っスよ?」

『うん』

「だから、青峰っちとなまえが二人きりなんて危ないっスよ、せめて桃っちも一緒に、」

『え、なんで?』

「え、何がっスか?」

『なんで青峰くんと二人だと駄目なの?』

「……はぁああ!?」

『え、あ、もしかして涼太も一緒にゲームしたかった?それなら今度青峰くんにお願いして…』

「いやいやいや、そういうことじゃなくって!!」

『?』



困惑した顔でこちらを見ている彼女に俺も焦る。ああああ、もう、なんて言ったらいいんスか、こういうの!唸りながら考えていると、なまえが心配そうに俺の顔を覗いてくる。……こういうのも平気で青峰っちにやってるなら、怒るっスよ。
目の前の彼女をぐいっと引き寄せて、触れるだけのキスをしてからそのまま抱きしめる。ああ、もう心臓うるせーよ。



「…青峰っちが、こういう事してきたらどうするの」

『う、ぁ……え?』

「青峰っちが無理矢理キスとかしてきたらなまえはどうするんスか?」

『えっ、と……どうしよう』

「なまえは、俺以外にこういう事されても平気?」



耳元でそう聞くと、彼女の肩がピクリ、と動く。そうした後に、とても小さな声で何かを言った。よく聞き取れなくて、もう一度聞き返す。



「え?」

『…涼太としか、やだ』



そう言った彼女の耳が真っ赤に染まっていて、それを見た俺も可笑しいくらいに顔が熱くなってきて、思わず彼女を抱きしめる腕に力を入れた。







♯わたがしみたいに甘い。

(涼太?)
(…もう少しこのまま)



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