《ドン!》





『っ…秀?』



片手を秀に掴まれて、そのまま壁に押しあてられる。すぐ近くに秀の顔があるのがわかって、顔が、上げられない。



「…………たの、」

『え?』

「っ石川と!なに話してたの!」



至近距離にいるはずなのに、聞こえないほど小さく放たれた言葉に聞き返せば、さっきとは違って大きな声で話される。



『え、いしかわくん?』

「…何で、俺とは喋ってくんないのに、石川とは喋るの」



そう言って秀は私の腕を掴む力を少し強める。いたい、けど、悪いのは私だから。このまま、



『そ、れは』

「…こんな風になるなら、友達のままで良かった」

『っちがう!』

「え?」



思わず顔を上げて秀の言葉を否定する。違うよ、嫌だよ、友達じゃ嫌だ。



『っわたし、秀が好きって言ってくれて嬉しくて…私も好きだったから、だけど、好きだなって思うたびに秀とうまく話せなくて、それで…、』



石川くんに、相談をしていた。
秀となるべく普通に、前みたいに話せるように。だけど、



『ごめん、なさい』



ぽろりと溢れた涙をあいたほうの手で拭うと、反対の手を引かれて、グッと秀に近付く。どくどくと鳴っている心臓の音がよく聞こえる。



「…ごめん、勘違いした、ほんとごめん」

『や、悪いのは私で、』

「最近、俺とあんまり喋ってくれなくなって、焦ってる時に石川と二人きりで話してるのみて、なんかこう…ほんと、ごめん…!」



さっきの腕を掴む力とは違う優しい力で抱き締める秀の背中に腕を回してもう一度、私のほうこそごめんね、と一言謝った。





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