撮影の時間までに時間が出来てしまった。
どうしようかと悩んだ結果、この寒い日に外で待つのは嫌だと思って近くのカフェに入った。一応帽子眼鏡で誰なのか分からないようにしてあるから、バレない、はず。



「すみません、相席でもよろしいですか?」

「え、あ…はい」



入ってすぐにそう言われて、携帯弄りながらだったから思わずそう言ってしまった。すぐに後悔して、相席はちょっとやばいんじゃないのかと焦っていると店員が勘違いしたのか「相手の方には許可を取っているので大丈夫ですよ」と俺に言った。いや、そういうことじゃないんだけど…。



「お客様、申し訳ありません」

『あ、すみません!今片付けるので!』



案内されたのは一人の女の子が座っている席だった。課題なのか、自主的な勉強なのかノートやら教科書などを机の上に広げていて、俺が見えると直ぐに片付けた。なるべく俺がモデルの黄瀬涼太だとバレないように、低い声で一言挨拶してから向かいの席に座る。



「………」

『………』



当然の如く、俺と彼女の間に会話は無く、俺も別に気にせず携帯を弄る。黒子っちにまた無視された。いい加減泣くっスよ俺。



『…あの、』

「…………」

『えっと、少しいいですか?』

「え!?あ、俺…スか?」

『あ、はい』



突然話しかけてきた彼女に、驚いて返事をする。携帯に向けていた視線を彼女に移すとシャーペンを持ったまま俺の方を向いて口を開いた。



『あの、初対面で図々しいとは思うんですけど、勉強出来たりとかしますか?』

「えっ、いや、俺勉強のほうはちょっと…。」

『あ、そうですか』



少し残念そうにそう言って、じっと問題集と睨めっこをしている彼女の視線を追って見ると、やはり俺では解けそうにもない問題が書かれていて、うわ、俺格好悪いな…。これが緑間っちとか赤司っちとかだったら、格好良く教えてあげたんだろうな、と少し悔しくなった。



『…んー、』

「…俺の友達に聞いてみようか?」

『えっ、いや、そんな、悪いですよ』

「解けそう?」

『…が、頑張ります』



携帯を弄るのをやめてテーブルに腕を乗せて体を乗り出して彼女との距離を詰める。ココアの香りがして、さっきから彼女が飲んでいたのはココアだったと知る。そういえば俺何も頼んでないな。



「何歳なんスか?」

『あ、14歳で中2です』

「え!?それ中2の問題…、」

『そうですよ』

「…ごめん、俺も中2だけどわかんないや」

『えっ、同い年だったんですね?』

「うん」

『誰かと待ち合わせですか?』

「そうなんだけど早く来すぎちゃって」

『あ、そうなんですか』

「いつもここで勉強してんの?」

『はい。家が近いのもあるけど、ここ落ち着くので』



笑う彼女に、笑った顔可愛いな、なんて考えたりして。



「…俺もまた来ようかな」

『いいですよ此処。ココアがオススメです』

「へぇー」

『今度待ち合わせの友達?恋人?の人と来てもいいと思います』



その言葉に、あぁ、この子俺のこと知らないんだって改めて思う。さっきから話してるのに態度変わんないもんな。



「よし!」

『え!?』

「頑張ろ!一緒に!」

『え、あ、勉強ですか?』

「自分達のやるべきこと」

『?』

「あ、そう言えば同い年なんだから敬語じゃなくてもいいっスよ」

『あ、そっか』

「うん、それで、名前なんて言うの?」



俺と彼女が友達になった日。





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