『木兎ー、かーえろー』

「!おー!!」



約束通り、部活が終わったであろう時間に顔を覗かせると中にいたバレー部員が一斉に私を見てきた。なんだなんだ。



「着替えてくるから待ってろよ!絶対待ってろよ!?」

『いや、待ってるからはやく行ってきてよ』



何故か興奮してる木兎を不思議に思いながらドアの所で立っていると木葉が近寄ってきて私の肩に手を置いた。



「頑張れよみょうじ」

『は?』

「んじゃ、お疲れ〜」

「ありがとなみょうじ!」

「ほんと助かるわ〜」

『え、ほんとに何?』



私に一言声を掛けて体育館から出て行く3年達に、訳が分からずに混乱していると赤葦くんが私のところまで来て同じように声を掛けてきた。



「今年はみょうじさんが居てくれて良かったです。去年はもっとうるさかったんですけど」

『ちょっとまって、何の話?』

「え?いや、去年は木兎さん俺の誕生日だから全員残ってバレーやろうぜってうるさかったんですけど、今年はみょうじさんが居るから」

『……え、』



私が顔を青くして赤葦くんを見ると、先程まで少し嬉しそうに話していた赤葦くんも段々と真顔になってくる。…ちょっとまって。



「…じゃあ、俺はこれで」

『いやいやいやいや、待って赤葦くん!!今日何の日って言った!?』

「先輩知らなかったんですか…」

『知らないよそんなの聞いてない!』

「てっきり知ってると思いました」

『だってそんな事一言も…!』



赤葦くんの手を掴んで問い詰めていると、ガタンという音と共に木兎が入ってきた。



「?…何やってんの?」

『…あ、』

「じゃ、俺帰りますね。お疲れ様でした木兎さん」

『!?え、ちょ、赤葦くん…!』

「?おう」



私の手を振りほどいて見たことないくらいの笑顔でそう言った赤葦くんに私はどうしたらいいんだと目で訴えたけど、赤葦くんは知らないとでも言うように無視して行ってしまった。



「じゃ、俺達も帰るか!」

『……うん』



まさか誕生日を忘れてたなんて言えない。
だから今日朝からテンション高かったのか。私が返事を返すと、さっさと私の手を取って歩き始めた木兎に合わせて私も歩き出す。



『あ、あ〜〜っと、木兎?』

「んー?」

『何所か寄って帰ろうか?』

「いやいや、もう暗いし帰ろうぜー。寒くねえ?」

『そ、そう?私は寒くないから大丈夫…』

「そーか?でもなんか顔色悪くないか?」



そう言って私の顔を覗き込んできた木兎にドキッとしながら、本当に申し訳なくなる。木兎ごめん…。



「体調悪いのか?」

『全然、平気』



笑ってそう言っても心配してくる木兎に「本当に大丈夫だから」と言うと、木兎は「ちょっと待ってろよ」と言って走って行ってしまった。仕方なくその場で立ち尽くしていると、直ぐに木兎が戻ってきた。



「肉まんかあんまん!」

『…あんまん』



笑顔で差し出してきたあったかいあんまんを受け取ると、それを片手で持ってまた手が繋がる。なんで木兎の誕生日に私が買って貰ってるんだ、逆でしょ普通…。



『…木兎』

「なんだ?」



繋いでいた手を引いて立ち止まると、もぐもぐと肉まんを食べている木兎が不思議そうにこちらを見る。



『誕生日、おめでとう』



ちゃんと目を見てそう言うと、木兎はゴクンと口の中の物を飲み込んで、少し顔を赤くして目を彷徨わせた。



「お、おお…」

『…え、なに』

「いや、お前俺の誕生日知ってたのか…?」

『…………え?』

「俺そう言えば今日誕生日ってなまえに言ってなかったと思って」

『え、えーーー…』



なんだそれ…!じゃあ、木兎は始めから私には何の期待もしてなかったってことか…!
「なにそれ…」と言いながらその場にしゃがみ込むと木兎も一緒にしゃがみ込んで「大丈夫か?」と声をかけてきた。大丈夫じゃないよ馬鹿。



『…なんで誕生日って教えてくれなかったの』

「ごめんな…」

『言ってくれれば私だって何か用意したのに』

「じゃあ、来年は言う」

『もー…私だってさっき知ったんだから…』

「そうなのか!」



とりあえず、木兎は気にしてないみたいで良かった。私としてはもっとちゃんと祝ってあげたかったんだけど、何もないからしょうがない。
…それでも何か。私が木兎にしてあげられること。



『…木兎』

「ん?」



しゃがんだまま首をかしげた木兎の頬に両手を当てると目を見開いて驚いている。そのまま軽く唇を合わせると直ぐに離れる。



『…これで来年になっても、忘れないから』



笑ってそう言うと、口を手で覆って真っ赤になっていた木兎が、ぎゅっと抱きしめてきた。



「…可愛すぎだろ」

『ちょ、くるし』

「帰したくなくなったんだけど」

『やだよ、帰るよ』

「あーーー、もーーー…」



力を入れて抱きしめてくる木兎に耐えながら、私もあんまんを落とさないように背中に手を回すと耳元で「今度覚えとけよ」という声が聞こえたような気がしたけど、聞かなかったことにしておこう。






♯HappyBirthday!

(帰ろっか)
(…その前にもう一回)





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