今日は、私の彼氏でもある赤葦京治くんの誕生日だ。…私が赤葦くんと付き合い始めて初めての誕生日。どうやって祝おうか。そんなことをもう何週間も前から考えていた。色々考えてみた結果、誕生日の最後、一日の終わりに祝いの言葉を言おうと思う。私の言葉で誕生日を締めくくりたいと思ったからだ。 『(だから、その時まで赤葦くんには言わない)』 「お、みょうじー!!」 『あ、木兎先輩おはようございます!』 「お前今日何の日か知ってる?」 『…赤葦くんの誕生日ですよね』 「やっぱ知ってんのか!もう赤葦には言ったのか?」 『まだ言ってないですよー』 「えっ、そうなの?」 『はい』 朝、元気な木兎先輩に遭遇して、赤葦くんの誕生日の話を持ちかけられる。先輩に私の計画を話すと先輩は目を輝かせて「何かカッケーな!!」と言って笑ってくれた。少し恥ずかしい。この計画を成功させるために、今日はなるべく赤葦くんと話さないようにしよう。 結局、今日一日赤葦くんとは一言も話していない。こんな日は初めてかもしれない。私はバレー部にも所属していないし、赤葦くんと同じクラスでもないから、私が避けていればこうなるのは目に見えていた。少し、寂しいけど、今日の夜に電話して言うんだ。それまでの我慢。ホームルームも終わって、私は荷物をまとめて急いで家に帰る。ああ、早く夜にならないかなぁ。 ×× カチコチカチコチと規則正しく刻まれる時計の針の音が薄らと聞こえて、瞼をゆっくりと開ける。あれ、私、いつの間に寝て、 『…!!』 ハッとして、体を起こすと携帯を手に取って時間を確認して、頭が真っ白になった。 00:30 確かにそう表示されている携帯を持つ手に力が入る。もちろん日付は「12月6日」。 …たしか、今日は帰ってきてから直ぐに、お風呂に入って、ご飯を済まして、やらなければいけないことを全て終わらせて準備万端の状態でベッドに座って携帯の時計を眺めていたはずなのに、なんで、いつの間に寝てしまっていたのだろう。どうして、 『赤葦くん、に』 ああ、せっかくの彼の誕生日。どうしてこういう所で駄目なんだろう私は。じわりと視界が悪くなる。こんなことになるなら、せめて赤葦くんと話せば良かった。誕生日に赤葦くんと一言も話していないってどういうことなの。本当に馬鹿なの。 ごしごしと、目をこすっていると携帯の着信音が鳴る。表示された名前を見て、一瞬戸惑ったけど、電話に出る。 『も、しもし』 [ごめん、寝てた?] 『…ううん、起きてた』 [良かった] 落ち着いたその声を聞くのは一日ぶり、ということになるのかな。赤葦くんの声はいつ聞いても安心する。優しい声で話し掛けてくれる赤葦くんに、また涙が出てくる。 『…どうして、』 [電話?…ごめん、迷惑だった?] 『!…ちが、』 [何か、今日みょうじの声聞いてないなって思って] 電話したんだけど、こんな遅くなってからでごめん。 何故かさっきから謝ってばっかりの赤葦くんに、どうしても言わなきゃいけない言葉を言う。 『…赤葦くん』 [ん?] 『誕生日、おめでとう…ございました』 そう告げると、赤葦くんは電話の向こうで少し笑ってから「うん、ありがとう」と言った。 『あ、あのね、本当はね、ちゃんと…』 [大丈夫、みょうじがしようとしてたこと知ってるから] 『え?』 [本当は、最後に言おうと考えてたんだよね] 『う…え、どうして?』 […さっき、木兎さんから電話かかってきて] 赤葦くんが言うには、日付が変わって10分が経った頃に赤葦くんの元に木兎さんから電話が掛かってきたらしい。赤葦くんが電話を取ると、興奮気味に「みょうじからの電話どうだったよ!?」と言われて困惑したんだとか。 [意味がわからなくて、理由聞いたんだ] 『…うん』 [それでみょうじのしようとしてた事知った] 『う、ん』 [それ聞いてみょうじの声が聞きたくなって電話した] 赤葦くんが、優しい声でそう言うから、私は…。 『…赤葦くん、あのね』 [うん、何?] 『次は、ちゃんと、言う…から』 [うん] 『わ、わたし、次は寝たりしない、し』 [うん] 『……あか、あしくん』 すき、 …今、赤葦くんにどうしても言いたくて、伝えたくて、口から出した言葉は自分が思ったよりも小さい声だったけど、ちゃんと赤葦くんには伝わったらしい。 少し間を開けて返ってきた言葉を聞いて、今すぐ彼に会いたくなった。 […うん、俺もみょうじが好き] ♯HAPPY BIRTHDAY! (…赤葦くんに会いたい) (明日、部活終わったらすぐに行く) 141205 ×
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