(井浦)


2月14日。
鞄の中に一つだけ綺麗にラッピングされた小さな箱を入れて、マフラーをぐるぐると巻いて、きっと驚くだろうななんて考えてにやけながら、とある高校まで歩いていく。あ、そういえばいつ学校終わるかとかしらないし、いつ帰るかもわからないや。まぁ、校門で待っていれば今日は早くに学校を出てくるはず。



『…おお、着いた』



まだ生徒は誰も歩いていない…ということはまだ校舎の中か。校門の端に寄ってしゃがみこんで待つことにしよう。何もすることがなくて、とりあえず携帯を開く。開いたところで何もすることないんだけどね。携帯を持つ手がだんだん冷えてきて、携帯を閉じて、手をこすって暖める。そんなことをしていると一人、また一人と校舎から生徒が出てきて、私を誰だコイツみたいな目で見てくる。まぁ、普通の反応ですね。目の前を通り過ぎて行くのは知らない顔ばかりで、早く来てよと下を向いて口を尖らせながら待っていると、突然声を掛けられる。



「えっ、なまえ!?」



顔を上げれば見慣れた緑頭。立ち上がろうかとも思ったけど、近づいて目線を合わせるようにしゃがんでくれたから、大人しくそのままの状態でいる。



『秀おそいー』

「え、ご、ごめん…?」

『寒かった』

「メールとかしてくれればよかったのに…!」



さむかったと言ってさりげなく手を前に出せば、ぎゅっと手を握ってくれる。あったかくて、思わず頬が緩む。



『透は?』

「…まだ学校。石川に用事だったの?」

『んーん、秀に用事だったの』

「あ、そう」

『秀、今日は何の日でしょー』



私がそういうと少し嫌な顔で、目を逸らしながら小さな声で「…ばれんたいん」と言った秀を見て、頭を撫でてあげたくなった。



『チョコは?』

「それ聞くー?」



顔を伏せてしまった彼を見て、自分の鞄の中から箱を取り出して秀の目の前まで持っていき、顔を伏せたままの彼に声をかける。



『じゃーん』

「は、…え?」

『ちょこれーと』

「え、え、石川に?」

『なんで。秀に用事って言ったじゃんか』

「え、俺…?」

『うん。秀がすきだから』



私が透を好きだと勘違いしていたらしい彼は驚いた顔のあとに、すぐに真っ赤になってまた顔を伏せてしまった。受け取ってもらえないと、周りの目が痛いよ。さっきからなんかギャラリー増えてる気がするよ。もしかして秀人気者なの?
名前を呼んで顔を覗きこんでみると、耳まで真っ赤の彼が口を開いた。



「……俺もなまえが好き」

『ほんとに?』

「ん、」

『じゃあチョコ貰ってくれるんだ』

「当たり前でしょ」

『秀大好き』

「……ちょっと、それ、あんまり言わないで」

『照れてるー』

「………」

『秀顔上げてよ』

「やだ」

『秀の照れた顔みたい』

「絶対やだ」



まだ顔を伏せたままの彼の頭をそっと撫でると、少しだけ顔をこちらに向けて私のほうを見てきた彼に微笑みかけると、彼も照れたようにはにかんだ。








♯ぴんく色に染まる。


(え、なにやってんの)
(あ、透だー)
(なんでなまえがいんの?)
(秀に会いに来たんだよ)
(え、は、秀にって…え?)
(秀、透混乱しちゃったよ)
(あー…うん)




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