*あめ(臨也)




「今日がなんの日だかわかる?」

『んー?なんの日だっけ?』

「………時々、君が本当に性別が女なのか調べたくなってくるよ」

『む、失礼だな』



臨也が失礼なことを言うものだから、読んでいた雑誌を閉じて臨也を睨みつけた。



「本当にわからないの?」

『はぁ?今日……あ、バレンタインか』



そういえば、今日はなんだか何処へ行っても甘い匂いがしていたような気がする。



『…で?それがどうかした?』

「俺に渡すものないわけ?」



いやいや、渡すもなにも…



『私、もう20過ぎですよ?臨也さん』

「うん。知ってるよ?」

『…今日がなんの日だかも忘れている人にチョコを求めますか、普通』

「フリじゃなくて、本気だったの?」

『人を憐れむような目で見るなっ!!』



しょうがないじゃないか。まさか、臨也がチョコを求めて来るなんて思いもしなかった。



『…臨也、甘いもの好きなの?』

「どっちかといえば苦手かな」

『じゃあいいじゃん』

「だったら甘くないもの用意するとかさあ」

『…めんどくさい』



そこまでして欲しいものなのか。…というか臨也はてっきり、こういう行事は嫌いなんだと思っていた。なんか、送られてもうけつけない感じ。



『…あの、とりまきみたいな女の子達からは貰わなかったの?』

「あぁ、断ったよ」



いや、そこは受けとってやれよ。可哀相じゃないか。せっかくくれたのに



「…ていうかさ、なまえは別に俺が他の子から貰ってもOKなわけ?」

『え?別にいいけど。私あげないし』

「えぇー…」



え?だめなの?
だって私はあげないんだからそんなに食べたければ貰えばよかったじゃないか。



「好きな子からの手作りチョコが食べたいんだけど」

『ごめん。私お菓子作れないし。』

「下手でもちゃんと食べるからさ」

『…これで、我慢してよ』



私は偶然ポケットに入っていた飴玉を臨也に投げ付けた。



「"手作り"っていったんだけど?」

『来年頑張る』

「はぁ…」



臨也はため息をつきながらも飴を口の中に放り込んだ。…あ、ちょっとまて



『…ねぇ』

「なに?」

『それ、何味だった?』

「んー、"白桃"?」

『それ、大事にとって置いたやつだ…!!』

「なまえが投げ付けたんでしょ。もう、遅いよ」

『………返せ』

「だから、もう遅いって…ば……?」

『失礼しまーす』

「は?ちょ、なまえ…っ!?」

『ん、おいひー』



私は、臨也の口の中から"自分の口"で飴を取り出した。



「……意味わかんない」

『拗ねないでよ。来年は頑張るからさ?』

「当たり前だから」






―十分甘い、君の唇―




×