(井浦)




今日も今日とて、井浦くんは彼女がいない事で悩んでいるらしい。



「あかね、いい加減俺と付き合ってよ」

「え!?…そ、それはちょっと…」

「井浦くん、いい加減にしないと殴るぞ」

「じゃあ、仙石さんでもいいよぉー…」

「無差別告白はやめろ、秀」

「井浦くんならそのうちできますよ!」

「そのうち?そのうちっていつ?10年後とか?」

「なんで今日機嫌悪いんだよ」



いつもいつも、近くから聞こえてくる会話。最初こそは聞き流していた会話も、今じゃ集中して聞くようになっていた。



「好きなやつとかいねーの?」

「…アサミ?」

「無理だろ」



そんな会話をしているうちに鐘が鳴って、井浦くんは少しうなだれながら自分のクラスへ帰ろうと歩きだす。私は、井浦くんが廊下へ出たところで彼を呼び止める。



『井浦くん!』

「……みょうじさん?」



不思議そうな顔をする井浦くん。……それもそのはず。だって井浦くんとは数えるほどしか話したことがないんだから。



「どうしたの?授業始まるよ?」

『あのさ、』

「うん?」

『…私は井浦くんのこと、大嫌いだから!』



にっこり笑ってそう言うと、井浦くんは口を開けたまま固まってしまった。だけど、その顔もすぐに真っ青になった。



「そ、それ本人に言うことなくない!?」

『え?本人に言わなきゃ駄目でしょうよ』

「なんで!」

『井浦くんが嫌いだからだよ』

「二回目!!」



なんなのみょうじさん!
と、叫んでいる井浦くんを見ながら、そろそろ言ってもいいかな、と口を開ける。



『……今日は何の日でしょう』

「き、今日…?」



え、今日何かあるの?と、首を傾げている井浦くんに少し笑えた。うーん、うーん、と考えているうちに向こう側から先生が歩いてくるのが見えて焦る。



『うわ、もう先生来ちゃった』

「ちょっと待って!結局今日は何の、」

『今日はエイプリルフール!私が言ったのも全部嘘!もっと言っちゃうと、さっき言ったやつの逆が私の気持ち!じゃね!』



急いで教室へ走る私の後ろから井浦くんの叫ぶ声が聞こえる。勢いに任せて言っちゃったけど大丈夫かな?








#本当は大好きなんですよ


(おわ、井浦くんどうしたの)

(…みょうじさん、ちょっと来て)

(へ?私今から帰ろうと、)

(っいいから!)

(…井浦くん顔赤いよ)

(…みょうじさんも赤いよ)

(へへ。井浦くんが彼女欲しいって言ってるの聞いてたら気になっちゃって)

(っ、)




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