(京都)


『Trick or Treat!』

「ブッ!?」



私がドアを開けて、そう叫ぶと勝呂くんは飲んでいたお茶を吹き出した。



『わ、汚いよ』

「ゲホっ、…お、おま、なんちゅー格好しとんのや!」

『猫!黒猫!』

「アホか!」



何故私は怒られているんだろう?
真っ赤な顔でコチラを見る勝呂くんを見ながら首を傾げると、勝呂くんは、ふい、と目を逸らした。



『とりあえず、お菓子!』

「…ない」

『えぇええ!』



ここまでしたのに…!
…これは、悪戯決定だよね。



『すーぐろっくん』

「……」

『ペン貸して?』

「はぁ?」




×××




「な、な…!?」

『きゃー!かわいい!』



私はペンを持って跳びはねる。
私がした悪戯とは…、勝呂くんがいつもワックスでかためている髪を上でゴムで縛り、勝呂くんの頬に赤色のペンでハートマークを描いてあげた。…うん、いつもの数百倍かわいい!



『よし。これくらいで許すー!』

「これくらいって、お前なぁ…!」




×××




『こーねこちゃーん!』

「はい?なんです、か…って、え?」

『Trick or Treat!』

「あぁ!猫の仮装なんやね」

『うん、そーだよー!』

「ちょっと待ってて下さい」



小猫ちゃんはそう言うと、鞄をゴソゴソとあさりはじめた。



「あった、…はい、どうぞ!」

『わぁ!ロリポップ!ありがとうね、子猫ちゃん!』



私は笑ってお礼を言うと、子猫ちゃんもにっこり笑った。




×××




これは慎重に行かないと…。



『と、Trick or Treat!』

「えぇー…」



ドアの隙間から、少しだけ顔を覗かせて話し掛ける。…だって、見られたくないから。



「猫耳見えてますよ?」

『お、お菓子か悪戯か!』

「せやなぁ…。なまえが、もう少し近くに来たら考えますわ」

『……や、じゃあ、いいです』

「あ、やっぱ、俺が行きます」

『きゃああああ!?来ないでぇええ!』

「…そないに嫌がらんくても」



ええですやん
しょんぼりとする志摩くんに少し罪悪感。…こんなに拒絶したら、さすがの志摩くんでも傷付くよね。



『ごっ、ごめんね!』

「じゃあ、」



ちょいちょいと手招きする志摩くんに、少しずつ近付く。



『お菓子…』

「え?お菓子なんてないで?」

『!?』



騙された!
そう気付いた時にはもう遅くて、右手をガッチリと掴まれた。



「なまえはどないな悪戯してくれはるん?」



そう笑う志摩くんに顔が引き攣る。…勝呂くんよりも酷いことしてあげようかな。


その後、私は顔に落書きされた志摩くんにおいしく頂かれました。来年のハロウィンは絶対志摩くんの所へは行かないんだから!




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