(千景)


「Trick or Treat!」

『わぁ。狼だー』

「そうそう。今日は狼男だぜー」

『女の子にはいつも狼だよね』

「やだなぁ。なまえだけだって」



そう言って笑うろっちーの頭には狼のような耳。結構似合ってる。



『どうせみんなの家回ってるんでしょー』

「なまえの家が一番目。どう?嬉しい?」

『……』



本当は死ぬほど嬉しいとか、絶対に言ってやんない。すぐ調子に乗るんだから。



『はい、お菓子。手作りー』

「すご!カップケーキ?」

『うん。結構上手くできた。渡すのはろっちーが一番』

「うお、」



すっげぇ、嬉しい。
そう言って笑うろっちーに、頬が緩む。頑張って作ってよかった。お菓子なんて滅多に作らないからなぁ。



「よし、一番になまえのお菓子貰ったし。そろそろ行こうかな」

『…ろっちー』

「ん?」

『Trick or Treat』

「え、」



ろっちーはどうやら、このパターンは考えていなかったらしく、びっくりしている。お菓子も用意してなさそう。…ていうか、"女の子になら悪戯されてもいい"って考えてるな。絶対に。



『私、お菓子がいいな』

「……あ!じゃあ、」

『?』



あれ、お菓子あるのかな。
ろっちーは、じゃあ、と言った後、私の目の前まで近寄ってきた。



『ろっち、…っ!』

「俺お菓子ないからさ。キスで我慢してよ」

『っばかじゃないの!?』



他の子はキスとか慣れてるかもしれないけど、私は、そんなに慣れてはいない。…顔あっつい



「真っ赤。誘ってる?」

『っるさい…さっさと行きなよ馬鹿』

「…なまえ」

『なに』

「夜、また来るから」

『!』



そう言ってろっちーは、私から離れて、にこりと笑った。




×