(臨也)


10月31日。朝の11時過ぎ。
突然、インターホンが鳴る。今日が何の日だったかなんて、覚えていなかった私は無防備にその扉を開いた。



『……』

「あぁ、なまえおは〈バタンッ〉」



…今、なんかいた。私の見間違いじゃなければ、あれは臨也で。だけど、臨也じゃなかった。あれ。おかしいな。臨也は"牙"なんてはえてないもの。



「ちょっとー。まだ俺何も言ってないんだけど?」

『え、やっぱり臨也だったの?』

「何言ってんの」



君は何をやっているの、そう言ってやりたい。目の前の彼は、口から牙をだし、マントなんか羽織っている。なに、この人。コスプレが趣味だったの?



「あれ?もしかして今日が何の日か知らない?」

『…は?』

「まぁ、知らないほうが俺にとって好都合だけど」



今日は確か、10月31日で……うん?10月31日?コスプレ?



『あ゛』

「Trick or Treat」



気付いた時にはもう遅くて。臨也は今日だけ使える言葉を言った。



『なんで!だって臨也イベントとか参加しないじゃん!』

「そのつもりだったんだけど。朝から嫌なもの見ちゃってさ」



臨也曰く、今日の朝池袋を歩いていると猫耳をつけて走っている女の子と、その女の子を真っ赤な顔で追いかけている池袋最強の男に出会ったらしい。



『はい?なんでそれを見て参加しようなんて思うの?』

「朝からイチャイチャしてムカついたから」

『意味わかんない!私と臨也はイチャイチャできません!』



そんな理由で私は巻き込まれてしまったのか。だいたい相手なら私じゃなくても他にいるでしょうに。



「Trick or Treat」

『…さっきも聞きました』

「じゃあ早く。」

『どうせお菓子が目当てじゃないくせに』

「あぁ、わかった?」



にこにこ笑っているのは、私がお菓子を持っていないのがわかっているからだろうか。…ムカつく。
あ、でも、ちょっと待てよ?



『ちょっと待ってて』

「は?」



玄関に臨也を置き去りにして部屋の中へ戻る。確かアレがあったはず…。



『あ、あった!』



私はそれを手にして、玄関へと行く。臨也のがっかりした顔が目に浮かぶ。



『はい、どーぞ』

「……」



私が部屋から持ってきたものを渡すと、臨也は思い切り嫌な顔をした。…私が臨也に渡したのは、"キャンディ"だ。棒付きの。



「……」

『じゃ、バイバイ臨也』



私がニコリと笑って扉を閉めようとすると臨也がそれを止めた。



『…何ですか。まだ何か』

「Trick and Trick」

『っ…そんなのあり!?』

「アリ。じゃ、お邪魔しまーす」

『きゃー!誰か助け、っむぐ』

「しー。誰か来たらどうするの」



いや、誰かに来てほしいから叫んでるんです。本当に、誰か助けて下さい。おまわりさんは一体何してるんですか。



「悪戯か悪戯。なまえに選択肢なんてないよ?」

『こんなのハロウィンじゃない!お菓子貰えない!』

「その分、悪戯で楽しめばいいんじゃない?」



そう言って臨也は牙を見せながら、にっこりと笑った。…そんな臨也が悪魔に見えたのはなんでだろう。




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