(静雄)


『しーっずおくーん!』

「…てめぇ、何しに来やがった」



私の顔を見るなり、一気に不機嫌になる彼、平和島静雄。まるで、どこかの誰かさんを睨みつけるような目つきだ。



『まーまー、そんな邪険にしないでよ』

「黙れ」

『聞いてよ!今日は喧嘩しに来たんじゃないんだよ?』

「あぁ?」

『さてさて、今日がなんの日かご存知ですか?』



私がそう言うと、静雄は頭にはてなを浮かべた。…なんの日かわかんないんだ。ってことは、あれも勿論用意していない、と。



『うへへ』

「きめぇ」



うわ、きもいとか言われた。仮にも女の子にですよ。



『…よし。準備はいいかな静雄くん』

「なんの準備だよ」

『Trick or Treat!』

「…は?」



バッと静雄の目の前に手を差し出す。静雄はすごく驚いた顔をしたけど、直ぐにいつもの顔に戻って私の手を掴み上げる。



『いったいいたいいたいいたい…!』

「聞こえねぇなぁ?」

『っく、お菓子用意してないからって卑怯だ!』



やっと離してくれた腕をもう片方の腕でさする。すると、静雄は軽く笑いながら



「お前仮装してねぇだろ」

『…仮装しなきゃダメなの?』

「当たり前だろ」

『…ちょっと待ってて』




×××




『し、静雄!』

「なんだ、………!」

『ま、待っててって言ったのに、どういうことだこのやろー!』

「……」



なんて奴だ!ぎゃーぎゃー1人で騒いでる私を見ながら、静雄は固まっていた。



『気を取り直して、Trick or Treat!』

「…なんだよ、その格好は」



その格好、と言うのはネコミミを付けている私の事だろう。



『だって近くにこれしか売ってなかったの!』

「……」

『ほら!お菓子ちょうだい!』

「ねぇよ」



そう言う静雄に、ニヤリと口角を上げる。待ってましたと言わんばかりに私は足を進める。



『ふふー』

「なに笑ってんだよ」

『よっ、と』

「!」



静雄の目の前まで来た私は、背伸びをして彼のサングラスを取り上げる。



『お菓子持ってない静雄くんにはイタズラだよね』

「はっ、やれるもんならやってみ―…」



ちゅっ



「っ!?」

『やったね!静雄の初ちゅうゲットー』

「なっ…!?てめぇ!なまえ!」



真っ赤な顔で追いかけてくる静雄をからかいながら、捕まらないように前を走る。
…猫耳をつけているのを、すっかり忘れて池袋を全力疾走してしまった私は、約1時間後に見事静雄に捕まって、静雄の家まで連れていかれた。




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