口内炎がじくじくと痛む。
我慢は出来るが、気になる痛みに眉を寄せてしまう。
ビタミンが足りない所為だったかそれとも蛋白質だったか、思い出せないけれど今すぐに治るなら何だってするな、と思う。
ああ違う違う、今はそんな事を考えてる場合じゃなくてだな。
この、文字通り山積みになった書類に目を通して会議の資料作成してこないだの始末書を書いて、おい待てようそだろ、終わる気がしねぇよ。
そうだ、鬼さんが足りない!きっと口内炎もその所為だ絶対。あの背中に抱きつきたい、だけど男なのに何であんなに良いにおいがするかな、ああ鬼さんかっこいい。
少し遠くのデスクで、真剣な顔をしてパソコンの画面を見ている鬼さんをそっと盗み見た。やばい好きすぎる。
…違う違う違う書類書類。これ終わらなかったら今日帰れないんだってば。がんばれ俺。鬼さんに触る為だ、やるんだ俺。やれば出来る、日付が変わる前までに!
「ヨシ」
「おわっ!?」
目の前に、さっきはあっちに居たはずの鬼さんがいて、俺いまちょっと椅子から浮いた。
「悪い、集中してたか。驚かせるつもりは無かったんだ」「や!大丈夫!集中してない!」「は?」
「嘘です!ちゃんとやってました!」
「…なんか疲れてるみたいだな」
鬼さんがすっごい心配そうにこっち見てる。ほんとごめんなさいずっと違う事考えてました。
「これやるよ。さっきたくさん貰ったんだ」
そう言って鬼さんが差し出したのは、ブルーベリーの飴玉が5つ。
「口内炎は眼精疲労が原因の場合もあるらしいぞ」
「え、…俺、口内炎あるって言いましたっけ?」
「今朝からずっと口の中気にしてるからすぐ解る」
少し困ったように鬼さんが笑う。
…ときめいた。
そんなのすぐ解るの鬼さんだけですよ。
「あんまり無理するなよ」
「あっ…鬼さん!」
「ん?」
「…ありがとう、」
「うん」
やばいな。なんだよこれ。
全回復した。もしかしたら口内炎も今ので治ったかもしれない。
やっぱり鬼さんが足りなかったんだな。納得した。ビタミンとか蛋白質とか炭水化物とか栄養ドリンクとかなくても、鬼さんがいれば俺は生きていけるんじゃないかな!
ブルーベリーの飴は、甘すぎなくて美味しかった。
結局夜中の1時くらいまでかかった。最初から頑張ってれば今頃帰れてたはずだが仕方ねぇか、鬼さん不足だったから!
「俺さ、鬼さんがいたら五大栄養素とかなくても生きてける気がするんだけど」
「死ぬと思う」
…ですよね。