今日、午後から利吉の機嫌が悪い。

何度一日の行動を思い起こしても発言を振り返っても利吉に何をしたのか解らず、頭を抱える。
このままじゃ途方に暮れてしまいそうで、思い切って訊いてみた。

「別に、何も」
「その言い方で何も無い訳あるか」

じっと目を合わせて、詰め寄る。不快かと思えば、困ったように眉を下げられてしまった。

「…何がそんなに気になるんですか」
「お前、昼過ぎからずっと機嫌悪かったじゃねぇかよ。俺が何かしたなら、謝らなきゃいけないだろ」
「…私の不機嫌は解っても、自分がした事は解らないんですね」

ぷい、そっぽを向かれる。
解らないから訊いてるんだ、それじゃ本当は駄目なんだろうけど解らないからと放置する訳にもいかない。強行手段も仕方無いと、無理矢理顔を掴んでこっちを向かせる。それでもやっぱり利吉は困り顔だった。

「…もう機嫌悪くないから、訊かないでください」
「嫌だ」
「っ…義丸さんが嫌でも、私も嫌なんです!」

いやいやと子供の様に首を横に振る。
それは困る、何をしたんだ俺は。
うろうろする視線を無視、柔らかく口付ける。ほら、利吉は俺の方を向いた。

「利吉、」
「ん…貴方は口吸いすれば済むと思ってるんですか」
「…嬉しい癖に。足りねぇか?」
「ん、ぁ」

首に腕を廻して、重ねる。すぐに主導権は俺に移って、利吉はされるがままに甘い感触を貪った。

「…、…笑いませんか」
「笑うかよ、」

呼吸を落ち着けながら、言う。
利吉は癖のついた前髪を触って赤くなった顔を隠した。

「…義丸さん、今日のお昼頃、水軍館にいらっしゃらなかった」
「…あー、確か、買い出し…」
「それ」
「は」
「その時何してましたか」

別に何もしてな…くは、ないようななくないような。港の女の子達と話をしてたのは、覚えてる。
といっても俺から話かけたんでもないし女の子から話かけてこられて無視する訳もいかない。ちょっとした談笑くらいはしたけど、それの何に嫉妬したんだ、利吉は。

「…女の子と話なんて今までも何回もしてんじゃんか、もうちょっと解り易く言ってくれよ」
「義丸さん…女の人と楽しそうに話して、髪触らせて、笑ってた」
「…。あれはしっかり髪を揶揄われて触られただけで、触らせた訳じゃねぇよ」
「声の聞こえないとこから見たらどっちも同じですよ…」

拗ねた様に言って、触られたのと同じ場所を軽く引かれる。本当に見てたんだな、こいつ。

「い、嫌なんです!」
「何が」
「、よ、義丸さん…が、女の人と楽しそうに…話して、触、られる…とか」
「んなの…女の子の手前触るななんて言えねぇだろ」
「そ、そうですけど…!…義丸さんの意志に関係なく、笑ったり触られたりするじゃないですか」

仕方無いのは解ってるけど、と。人付き合いだから解って欲しい。別に俺だって好き好んで利吉以外に笑ったりしてる訳じゃ無い。(かといって女の子が嫌いって訳でもないけども。)
利吉だけに全部、なんて出来たら本当は一番良いんだけど。

「…笑いますか」
「笑わねぇって。でも、かわいい」
「…っ可愛いとかは止めてください」
「じゃあ、なんて言うんだ?」
「……」
「…そういうとこがかわいいよ」

ふ、と笑ってやったら、利吉は頬を膨らます。
利吉の格好良いところだって沢山知ってるし、そう思ってる。けど、俺に見せてくれる利吉は、どこもかしこもかわいい。

「だから、…それで少し機嫌が悪かっただけです」
「ああ、」
「…呆れてますか」
「呆れられてぇのか?」
「ちっ、違っ」
「…あーもう、かわいい」

ぎゅっと抱き締めて、首筋にちゅっと口づけをすれば、利吉から甘い声が漏れた。

「、なに、今かわいい声出したな?」
「だ、出してないです!」
「嘘つけ」
「っ…、ん」

そのまま利吉の唇を貪ってやる。すると観念したのか、自分から顔を傾けて俺の唇を受け入れた。そんな利吉が愛しくて、俺は利吉の指に自分の指を絡めた。好きなのも、愛してるのも、触れたいのも、触れさせたいのも、

「利吉だけ」
「…はい」

可愛く頷いてくれる、
俺の全てを満たす人。


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