「今となってあの日の事を思い出しても、あまり覚えていないんです」

貴方は覚えていますか?
大事な1日だったはずなのですが、私にとっても貴方にとってもただ過ぎていく1日でしかなくて。

(『じゃあ行こうか、立花君』)

でも少しは覚えてますよ。あなたが差し出した手、笑顔。
素直に、ずっと憧れの存在だった貴方と行動ができて嬉しかったのです。…そうですね、最初は憧れでした。

貴方は覚えていますか?
あの雨の日のこと。街で偶然出会って、ずぶ濡れで学園まで走りましたよ。
多分、あの時からもう、同じ気持ちだったんですね。

(貴方の手はとても温かかった)


最後に会った日、覚えていますか?
貴方も覚えていると思いますよ。
あれだって、ただの帰り道ですけど。何度だって貴方と一緒に帰った帰り道はあったけれど、

『なぁ…立花君、』
(後ろ姿に貴方は声をかけた)
『…え?』
(声を、かけて、)

私は自然と笑顔が溢れた。
(憧れと称していたのは、最後の日)

『君が好きだよ』

(2人の笑顔が重なった)


そして貴方はこれからの日々を、覚えていられるでしょうか。
…私は無理だと思いますよ。私のこれからには貴方がいて、貴方のこれからにも、私がいるんですから。

『覚えていたよ、ずっと』

貴方はそう言ってくださいました。
きっと貴方なら、私が涙をこらえていたのを知っていたでしょう。
それなのに私の手を握って、狡い方です。
貴方はどう思うでしょうか、これからの、隣同士の日々を。

『手を繋いで、このまま、ふたりでひとつになれたらいいのにな。』












「仙蔵?」
「―――え?あぁ、すみません」

ぼーっとしてました、と私は笑って言う。貴方は少しだけ笑って、縁側に座っている私の隣に座った。
そして、いつの間にか私の頬を流れていた涙を、貴方は親指で優しく拭った。


(それこそ見逃してきた一瞬の涙)





***
補足すると最初の一緒に行動したのは映画の喜三太救出の件です。あれで利仙目覚めましたがあの時はまだ恋仲じゃないと美味しい(わたしが)
利仙が幸せならわたしも幸せです

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