綾仙というか文仙←綾です
「出来ない事といえば、子供を作る事くらいだ。腸に精液をいくら流し込んだって無理、それが本当に悲しくていとおしい」
珍しく饒舌で、感傷的。
貴方はこんな風に僕の髪を撫でる様な人じゃないけれど、低い声は耳に心地いい。
「どうかしたのですか」
「喜八郎。もし私が、」
「立花先輩、」
もしもの話はしたくないです。
『もし、』の後に続く言葉は、僕が聞きたくない事ばかりなんだと、いい加減学びました。
「…私はお前を傷付ける事しか出来ないか?」
「いえ、それは違います」
「喜八郎、」
「なら僕も、『もしも』の話していいですか?」
『もし、』
「僕が、潮江先輩より先に先輩に出会っていたら、」
『もし、』
「潮江先輩が僕だったら」
先輩は僕を好きになりましたか。
「…優しくしたいと思っている」
「…それが、逆に痛いって気づいてませんでしたか」
それでも、先輩は、痛みだけをくれた訳じゃないけど。
「…好きになって良かったです、立花先輩、ありがとうございました」
今までと変わらずにいたい。僕の気持ちが邪魔だった。意識して意識して、期待してしまったから。
「自己完結か」
「まあ、そうです」
「なんだか、…ふられた気分だな」
「いえ、僕は先輩が好きです」
「…喜八郎」
握られた指先が、震えた。
『もしも』の話は好きじゃないです。『絶対に無いけれど』って聞こえるので。
それでも期待してしまうから、僕は『もしも』の話は好きじゃないのです。
「『もし』、私が…」
そのあとに続く言葉を、僕は聞いていいのだろうか。