握られた手が大きくて、
頭を撫でる手が優しくて、
頬を伝う水分を掬う手が切なくて、
狡い。
一緒に出掛ける。デートだな!とさも嬉しそうに笑いかける小平太に、別に何時もと変わらないだろ、と返す。
本当はデートだとにやけてしまう顔を引き締めて、私は箪笥と睨み合いをした。折角のデートなんだから、綺麗と言われないまでも、可愛いとぐらいは言ってもらいたいと思った。
それでも無難なものしかなくて、腹立たしくなる。
「…仙ちゃん、箪笥に穴空くぞ?」
だって、可愛い服がない!八つ当たりに睨むと、小平太が「細かいことは気にするな!仙ちゃんなら何でも似合うから!」と、箪笥からぽいぽい服を引っ張り出した。
大きめのパーカーにプリーツスカート。スカートは伊作がくれたもの。そうだ、ブーツも貰って出してないのがある。
思い出して、嬉しくなって支度した。
その横で座っていた小平太はにまにましながら私を見上げていた。
「仙ちゃん、かわいーぞ!変質者に攫われないようにしないとな」
「既に隣に変質者がいるからな」
上出来だ。態度には出さないが、褒められたことが嬉しくて仕方がなかった。なんて、舞い上がってたら天罰だろうか、ブーツのヒールが高過ぎたらしく、歩いてる途中から足が凄く痛い。
いつも、ローファーとか踵の高くないパンプスしか履いてなかったから、足が慣れてなかったのだ。
近くの珈琲屋でブーツから脚を抜くと案の定、水ぶくれができていた。痛いし、情けないし、折角のデートなのに、と目から水分が溢れ出して止まらない。
「仙ちゃん、帰ろ?」
舞い上がってたから、罰が当たったのだろう。
小平太に申し訳ない。
「…悪い」
絞り出すように謝る。
小平太が仙ちゃんのせいじゃないよと、私のブーツを片手に持った。裸足で歩くのか。でも、ブーツは痛くてもう履けないから仕方ない。
「仙ちゃん、背中」
小平太が私に背中を差し出す。しゃがんで、後ろで手をひらひらさせた。
「は?」
「痛くて歩けないだろ、ほら、背中乗っていいぞ!」
「…」
おずおずと背中に抱き付くと、落とさないけど、落ちないよう首に手をまわしといてくれ!といつもみたいに笑った。
狡い。
小平太の背中はあったかいし、優しいし、髪の毛からは太陽匂いと小平太の匂いが混ざって、ひどく安堵する。
小平太と同じ高さの目線が、こいつと一緒になれたような気がしてどきどきして、恥ずかしくて頭をこすりつける。そうしたら、小平太からも心臓の音がきこえた。