「仙ちゃん、好きだ!」
七松小平太がめいっぱいの笑顔で言った言葉。一回目。
その日から言葉が私に降り積もる。
小平太の口から零れる言葉たちのなかでも『好き』は、いっぱい溢れ出る。
あの日から一体何回言われて、どれだけ溜まったんだろう。降り積もる言葉は、日常で何気なく言われるものから、深く言われるものまで。あまりにも多すぎて、私は数えるのを諦めた。
カウントしきれない。『好き』の定義も酷く曖昧だ。いつもにこにこしながら、仙ちゃんの手が好きだとか、仙ちゃんのさらさらした髪が好きだとか、酷いと『そーいうとこ』なんて一括りだ。
本当に好きなんだろうか。溢れ出し、積もった言葉に溺れながら思った。言うことで、こいつは自分に言い聞かせてるんじゃないのか。だって、本当に大事なことは
そうだ、大事なことは言わない
言ってくれない
「…仙ちゃんはね」
こいつの口から出る言葉が怖くなって、私は裾を引っ張った。
「仙ちゃんは、大事なことは言わないよね」
掴んだ裾に皺が出来る。
「でも、私は仙ちゃんに言うぞ!好きって言われた仙ちゃんが見たいから」
強く握り締めた裾が、ぐしゃぐしゃになる。
「言った言葉が大事なんじゃなくて、仙ちゃんに伝わったかどうかが大事なんだ」
「…私はお前に好きなんて言ってない」
「言ってるよ」
「言ってない!」
「言ってるのに」
「いつ!私がいつお前に言った!!」
だって、大事なことは言ったら、慣れてしまったら、意味が薄れてしまったら、言ってないのと同じになるだろうが。それなのに、こいつは言う。言い続ける。
俯いた私から小平太の表情はわからない。困った顔をしているだろうか。怖くて強く握り過ぎた指に小平太の手が触れた。
「仙ちゃん、手、大事だから」
爪が食い込んで紫になってる。
「…大事じゃない」
「仙蔵」
不意に、名前を呼ばれた。
こいつから名前で呼ばれたことなんてなかった。名乗った時からこいつだけはいつも『仙ちゃん』と呼んできたのだ。
私は思わず目を丸くした。
「あのな、私は仙蔵と同じじゃないんだ」
ほら、
「仙蔵は大事なことは言わない。でも、仙蔵が私の服の一部を握り締めてるときは、言われてるのと同じように思ってるよ」
同じじゃないから比べられないかもしれないけどな、と小平太は付け足して苦笑した。
「…私は仙ちゃんに掴まれた回数は『すき』って言われた回数だと思ってカウントしてるぞ」
見上げた小平太は穏やかに微笑っていたけれど、私は言いくるめられたようで納得できなかった。
「…都合がよすぎるんだ、お前は」
「うん。仙ちゃんが好きだ!」
「もうわかったって…」
「仙ちゃんは?私のこと好き?」
「…じゃなかったら今頃突き飛ばしてる」
「それって好きってことか?」
「自分で考えろ!もう何度も言わせるな馬鹿者」
私の大事なことは、意味を喪わずにこいつのなかにストックされているのだろうか。