「立花先輩が髪切った夢みました」
「は?」
いきなりなのは、何時も。
何時もなんだが、
「なんか、切り過ぎちゃって、こけしみたいになってました」
「…誰がこけしだ」
お茶を飲んでるところにのたのたと喜八郎が来て、来たかと思ったら人の背中に額を押し付けて髪を引っ張りながら話し始めた。
これぐらいです、と言いながら髪を両手でつまんで持ち上げる。
「可笑しかったか」
「いえ。綺麗でした」
なら良かった、と思ったが、人の夢に良かったとかあるのか。 でも、笑われるのは癪だ。
「おまえが切ったのか?」
「滅相もないです。そんな、立花先輩の髪の毛を切るなんて」
「不得手か」
「やったことないですけど、立花先輩のは多分無理です。勿体無い」
「なんだ、それ」
「でも、先輩の髪の短いのは見たこと無かったので新鮮でしたけど、ちょっとショックでした」
短くしたら、もしかしたら癖っ毛にでもなるかもしれない。
「何で、お前がショック受けるんだ」
お茶が温い。喜八郎に入れ直してこい、と言おうとしたが、止めた。
「わかんないです。でも、遠くに行ってしまう気がしました」
髪切って、遠くに行くって何だ。
「…、お前、寝直せば」
「寝たら、先輩、どこかに行っちゃうから嫌です」
「買い出しくらいは、行くかもな」
どすり、頭を私の背中に押し付けて腰に手を回し幼子のように、いやいや、振る。
揶揄う雰囲気でもなさそうなので、そのまま抱きしめられた手をゆっくり撫でる。
少し、不安で私に縋ってくる喜八郎は可愛い。
ほんの、少しだけ。
切らないし、お前を置いてはいかないよ。
表情の見えない喜八郎に向かって囁いた。